ミトコンドリアを活性化する低分子化合物との併用で抗腫瘍効果を増強
京都大学は1月19日、PD-1阻害による抗腫瘍効果を大幅に増強する併用治療法を発見したことを発表した。低分子化合物とPD-1阻害抗体によりキラーT細胞のミトコンドリアを活性化すると、マウスに移植したがんが急速に退縮し、生存期間が大幅に延長したという。この研究は、同大学大学院医学研究科の本庶佑客員教授、茶本健司特定講師の研究グループによるもの。研究成果は「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に1月17日付けで掲載されている。
画像はリリースより
PD-1抗体によるがん免疫治療法は、これまでの標準治療に対して抵抗性のがんに有効で、がん治療のあり方を一変させた。一方で、PD-1抗体が有効でない患者も少なからず存在し、PD-1療法に無効な患者に対する新しい治療法の開発は緊急の課題。治療開始前に有効例を選別する方法の開発も急がれている。
同研究グループは、PD-1を欠損するマウスでT細胞のミトコンドリアが活性化していることを発見。ミトコンドリアは細胞内において非常に効率的にエネルギーを産生するため、T細胞の分化・活性化に大きく影響を与えることから、ミトコンドリアを活性化させる薬剤とPD-1阻害抗体との併用により、がん反応性T細胞がさらに活性化し、抗腫瘍効果を増強できるのではないかという仮説を立て検証したという。
ベザフィブラートとニボルマブとの併用療法の臨床治験を計画
今回の研究では、マウス大腸がんMC38を皮内接種したマウスにPD-1阻害抗体を腹腔投与して治療するモデルを使用。PD-1阻害抗体治療時にがん近傍の所属リンパ節を切除すると、抗腫瘍効果が完全に消失し、所属リンパ節でのキラーT細胞の活性化が非常に重要であることが明らかとなった。さらにその過程で、活性酸素がT細胞のエネルギー制御に重要なmTORとAMPKを、それぞれエフェクターとメモリーT細胞で活性化し、それらの下流に共通に存在してミトコンドリアの活性化に非常に重要な役割を果たしているPGC-1aを活性化させることを解明。PG-1aを活性化する低分子化合物ベザフィブラートは、キラーT細胞内のミトコンドリア由来エネルギーを増大させ、PD-1阻害抗体の腫瘍抑制効果を増強することも証明したという。
PGC-1αを活性化させるベザフィブラートは最も下流のシグナルを刺激し、直接ミトコンドリアを刺激するため、有望な併用薬といえるという。これらの結果は、がん患者においてもT細胞のエネルギー代謝を制御することで、PD-1阻害抗体の有効性を増強できる可能性を示している。ベザフィブラートは高脂血症の薬としてすでに臨床で使用されており、同研究グループは、同薬剤とニボルマブとの併用治療の臨床治験を計画中という。
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・京都大学 研究成果