「身体動作」と「外部環境」のどちらに注意を向けるか
自治医科大学は1月18日、上肢に麻痺を呈する脳卒中患者が得意とする注意の向け方には個人差があり、その認知機能特性に基づいた注意の向け方を採用することでより正確な運動が実現できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学医学部先端医療技術開発センター脳機能研究部門の櫻田武研究員、平井真洋准教授、医学部脳神経外科学講座の渡辺英寿名誉教授らの研究グループによるもの。研究成果はNature系の国際科学誌「Scientific Reports」に1月17日付けで掲載されている。
運動機能障害に対するリハビリテーションを行う際に、より高い訓練効果を得るためには、運動中における脳の認知機能の働きが重要といわれており、中でも注意の向け方は、運動パフォーマンスに強く影響することが指摘されている。多くの従来研究では、ボールをつかんで運ぶような作業療法であれば、「手の動き」ではなく、「ボールを移動させる際の軌道」に注意を向けることでより良い運動が実現するというように、運動中の注意を「身体動作(Internal focus)」ではなく、「外部環境(External focus)」に向けることでパフォーマンスが向上するとされてきた。
研究グループはこれまでに、健常な成人を対象とした研究で、より良い運動パフォーマンスを得るために「身体動作」あるいは「外部環境」のどちらに注意を向けるのが最適かに関して、個人差があることを明らかにしている。
新たなテイラーメード・リハビリテーションプログラムの開発に期待
今回の研究では、急性期脳卒中患者を対象とし、麻痺側上肢で運動を行う際の最適な注意の向け方を検証。脳卒中患者における脳機能個人差を評価するため、質問紙により運動イメージ能力を定量化した。その結果、筋感覚(体で感じる感覚情報)に基づく運動イメージが得意な患者と視覚(目で見た情報)に基づく運動イメージが得意な患者に分かれることがわかった。
次に、コンピュータマウスを操作して画面上の円軌道をなぞる運動を行うと、筋感覚運動イメージが得意な患者の多くは、「身体動作(手先)」に注意を向けることで正確な運動が遂行できたのに対し、視覚運動イメージが得意な患者の多くは、「外部環境(画面)」に注意を向けることで正確な運動が遂行できることが明らかになった。
今回の研究成果で、運動パフォーマンスを向上させる最適な注意の向け方は患者ごとの認知機能特性に応じて異なることが明らかとなり、従来示されてきた「外部環境への注意」の効果が万人共通ではないことを示唆している。この知見は個々の脳の特性(イメージ能力の個人差)に基づく新たなテイラーメード・リハビリテーションプログラムの開発につながることが期待されると、研究グループは述べている。
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