天然有機化合物の構造多様性を創出する生合成経路を解明
理化学研究所は1月17日、天然有機化合物の構造多様性を作り出す新しい生合成経路を発見し、細胞内での薬剤の追跡や標的タンパク質同定に役立つ“タグ”を持つ新しいスタンボマイシン類の創製に成功したと発表した。この研究は、理研環境資源科学研究センター天然物生合成研究ユニットの高橋俊二ユニットリーダーら国際共同研究グループによるもの。研究成果は、国際科学雑誌「Nature Communications」に12月21日付けで掲載されている。
画像はリリースより
微生物が生産する天然有機化合物は複雑な構造を持ち、それらの中から多くの抗菌薬、抗がん剤、抗寄生虫薬、免疫抑制剤などが発見されている。ポリケチド化合物は、これら有用化合物の骨格を形成している化合物の一群であり、ポリケチド合成酵素(PKS)がその反応を触媒する。マロニルコエンザイムA(CoA)およびメチルマロニルCoAなどの主要伸長基質に加えて、多様な側鎖を持つアルキルマロニルCoAを伸長基質に用いることで、生合成産物であるポリケチド化合物は多用な構造をとる。これまで、アルキルマロニルCoAは、還元・カルボキシル化酵素(CCR)によって生合成されることが知られていた。
しかし、ある放線菌(Streptomyces ambofaciens ATCC23877)が生産するスタンボマイシン類はアルキルマロニルCoAをその骨格形成に用いているにも関わらず、その生合成遺伝子群の中にCCRに相同性を示す遺伝子が存在しない。そこで国際共同研究グループは、新しい生合成酵素の存在を予想し、その解明を試みたという。
酵素「SamR0483」が関与する新しい生合成経路
研究グループは、ポリケチド化合物のスタンボマイシンおよびリベロマイシンの生合成機構を解析することによって、CCR反応を経由しないアルキルマロニルCoAの生合成経路を探索。その結果、反応中間体のアシルCoAをカルボキシル化する酵素「SamR0483」が関与する新しい生合成経路を発見。また、生合成工学手法により、ルキンやアジド基といった細胞内での薬剤の追跡や標的タンパク質同定に役立つ“タグ”を持つ新しいスタンボマイシン類の創製に成功したという。
今後、同研究で見いだした生合成システムは化合物の構造多様化に寄与するだけでなく、天然有機化合物の作用機序解明に役立つ上述のタグを導入するツールとしての活用が期待できる、と同研究グループは述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース