分子標的薬リツキシマブによる腫瘍体積の増加抑制を増強も
神戸大学は1月13日、がん細胞を食べる(貪食)能力を持つマクロファージ上のSIRPαという特殊なタンパク質に対する抗体を用いることで、マクロファージが活性化され、がん細胞を効率よく排除することができることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科シグナル統合学分野の的崎尚教授と村田陽二准教授、栁田匡彦大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、米医学誌「JCI Insight」オンライン掲載に1月12日付けでされている。
画像はリリースより
研究グループはこれまでに、マクロファージの細胞膜に存在するタンパク質SIRPαとその貪食標的となるがん細胞や老化細胞などの細胞膜に存在するタンパク質CD47が結合すると、マクロファージの貪食作用が抑制されることを見つけていた。今回は、ヒトB細胞リンパ腫由来Raji細胞を皮下移植した免疫不全マウスを用いることで、SIRPαに特異的に結合し、CD47とSIRPαの結合を阻害する抗体(抗SIRPα抗体)が、分子標的薬リツキシマブによる腫瘍体積の増加抑制(腫瘍の増殖抑制)を増強することを見いだした。
さらに、CD47とSIRPαの結合を阻害する抗SIRPα抗体により、リツキシマブによるマクロファージのRaji細胞に対する貪食作用が強められることを示した。これらのことから、CD47とSIRPαの結合を阻害する抗SIRPα抗体が、リツキシマブなどの分子標的薬によるがん細胞に対するマクロファージの貪食作用を高めることで、強力な抗腫瘍効果を発揮すると考えられたとしている。
抗SIRPα抗体と抗PD−1抗体の併用、単独使用よりも強い抗腫瘍効果もたらす
また、研究グループは、ヒトおよびマウスの腎がん、悪性黒色腫(メラノーマ)にSIRPαが豊富に存在することを発見。マウス腎がんまたは悪性黒色腫由来の株化細胞を移植した野生型マウスにおいて、抗SIRPα抗体の単独投与が、腫瘍の増殖や転移を抑えることを見つけた。一方、薬剤によりマクロファージを消失させたマウスでは、この抗SIRPα抗体によるマウス由来腎がん細胞に対する抗腫瘍効果が弱まることを示した。
さらに、マクロファージと腎がんまたは悪性黒色腫由来がん細胞を用いた貪食実験から、抗SIRPα抗体が、がん細胞のSIRPαに直接結合することでマクロファージによるがん細胞の貪食作用を誘導すること、がん細胞とマクロファージ間のCD47とSIRPαの結合を阻害しマクロファージの貪食抑制を解除(マクロファージの活性化)することがわかり、抗SIRPα抗体による抗腫瘍効果はこのような二重の作用を介したものであると考えられた。
近年、抗腫瘍免疫を担う細胞傷害性T細胞を抑制する免疫チェックポイント分子のひとつであるPD-1タンパク質の機能を阻害する抗PD-1抗体が、抗がん剤として有効性を示すことが明らかとなり注目されている。研究グループは今回、マウス大腸がん由来の株化細胞を皮下移植した野生型マウスにおいて、抗SIRPα抗体と抗PD-1抗体の同時投与が、それぞれの単独投与に比べ、腫瘍体積の増加を強く抑制することを発見。この作用機序について十分にはわかっていないが、抗PD-1抗体などの細胞傷害性T細胞に対する免疫チェックポイント阻害剤と抗SIRPα抗体との併用が、それぞれの単独使用よりも強い抗腫瘍効果をもたらすと考えられる。研究成果が今後、がん治療薬としての抗SIRPα抗体の開発につながることが期待されると、研究グループは述べている。
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