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iPS細胞を用いて遺伝性難聴「Pendred症候群」の原因と治療法を発見-慶大

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2017年01月13日 AM11:45

内耳の細胞死により難聴が徐々に進行していくことを明らかに

慶應義塾大学は1月11日、患者のiPS細胞を用いて遺伝性難聴であるPendred症候群の原因を明らかにし、新規治療法を発見したことを発表した。この研究は、同大医学部生理学教室の岡野栄之教授、耳鼻咽喉科学教室の小川郁教授らと、NHO東京医療センターの松永達雄部長との共同研究によるもの。研究成果は「Cell Reports」に1月3日付けで掲載されている。


画像はリリースより

老人性難聴や突発性難聴、メニエール病などに代表される難聴の多くは内耳に原因があることが知られており、WHOの報告によれば、65才以上の人口の30~40%が難聴によりハンディキャップを有しているという。Pendred症候群は、進行性難聴とめまい、甲状腺腫を特徴とする遺伝性の疾患で、遺伝性難聴の中で2番目に患者数が多く、SLC26A4遺伝子の変異によるペンドリン(PENDRIN)タンパクの異常が原因であることが知られている。

これまで遺伝性難聴の研究は患者の遺伝子変異を持つマウスを作成して観察することで進められてきたが、一部の遺伝性難聴では、遺伝子改変マウスが難聴を起こさないことがしばしば報告されており、Pendred症候群においても遺伝子改変マウスは進行性難聴を再現できず、治療法の開発が進んでいなかった。

今後、他の遺伝性難聴や原因不明の難聴の原因にもiPS細胞でアプローチ

同研究グループは、ヒトiPS細胞から内耳細胞を効率的に安定して作成する方法を開発。それと同時に、Pendred症候群患者の血液から疾患特異的iPS細胞を作製し、患者iPS細胞と健常者iPS細胞から内耳細胞をそれぞれ作成して比較検討を行った。その結果、患者 iPS細胞から作られた内耳細胞においてのみ、細胞内に異常なペンドリンが蓄積、パーキンソン病やアルツハイマー病などの進行性の中枢神経障害を呈する神経変性疾患にみられるような凝集体を作ることがわかったという。この内耳細胞は、Pendred症候群の患者では細胞ストレスに非常に弱く、細胞がより死にやすくなっていることが明らかとなった。さらに研究グループは、疾患の難聴の進行の治療薬を開発するため、複数の薬剤の中から、この細胞ストレスに対する細胞脆弱性を改善する薬剤を探索した結果、免疫抑制剤であるシロリムスが脆弱性を改善することを発見したという。

今回の研究成果で、Pendred症候群の進行性難聴は、多くの神経変性疾患と同様のメカニズムによって進んでいくこと、さらにシロリムスが進行性難聴を抑制する治療薬となる可能性が示唆された。内耳に原因のある進行性難聴には、遺伝子変異のほかにも多くのメカニズムが仮説として考えられているが、ヒトの内耳の細胞は採取できないため、臨床現場では最後まで原因が明らかにならないことがしばしばある。研究グループはこれらの原因不明の進行性難聴の中に「内耳変性」を起こしている患者が含まれている可能性を考えており、今後このヒトiPS技術を用いたアプローチで徐々に明らかにしていくとしている。

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