AMBNを指標とした骨肉腫の診断・治療法開発の可能性探る
広島大学は1月5日、Ameloblastin(AMBN)が骨肉腫細胞のSrc-Stat3経路を不活性化し、アポトーシスを誘導、コロニー形成能・遊走能を抑制、ドキソルビシンに対する感受性を亢進することで、in vivoでの腫瘍原発巣の増大・転移を抑制することを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬保健学研究院 口腔顎顔面病理病態学研究室の安藤俊範助教を中心とした研究チームによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に同日付けで掲載されている。
骨肉腫は骨形成性の悪性腫瘍であり、小児や若年者の長管骨に好発する。近年では、化学療法と外科的治療を併用することで5年生存率の改善がみられるが、未だ再発や肺転移により予後不良となる症例も少なくなく、より効果的な治療法が必要とされている。
AMBNは、amelinあるいはsheathlinとも呼ばれるnon-amelogeninエナメルマトリックス蛋白で、エナメル質の結晶成長やエナメル芽細胞の分化に関与すると報告されていた。しかし最近になって、AMBNが発生期の骨組織にも発現し、骨分化に関与している可能性が示唆され始めた。同研究室は、AMBNが細胞膜受容体であるCD63およびIntegrinβ1と複合体を形成し、下流シグナルであるSrcの抑制を介して骨芽細胞の分化を誘導することを明らかにしていた。これまでの研究からは、「ヒト骨肉腫細胞株の大部分においてAMBNの発現が抑制されている」「AMBN変異マウスで腫瘍の形成が認められる」「AMBNの過剰発現が腫瘍細胞の増殖能を抑制する」など、骨肉腫においてAMBNが腫瘍抑制因子としての役割を有する可能性が示唆されていた。
AMBNの発現、肺転移とは負の相関、生存率とは正の相関傾向が
今回の研究では、ヒト骨肉腫細胞株を用い、AMBN低発現細胞に対してはvectorを用いてAMBNを安定的に過剰発現させ、AMBN高発現細胞に対してはshRNAを用いてAMBNの発現を安定的にknockdownした細胞株を樹立。それらのphenotypeを解析した。
その結果、AMBNは骨肉腫細胞に対してアポトーシスを誘導、コロニー形成能・遊走能を抑制、ドキソルビシンに対する感受性を亢進させることが明らかになったという。そしてこれらのphenotypeは、AMBNがSrcおよびその下流シグナルであるStat3を不活性化することで生じることが判明。また、ヌードマウスに腫瘍細胞を接種し、in vivo imaging assayや組織学的に比較検討したところ、AMBNは原発巣での腫瘍の増大および肺転移を抑制した。さらに、骨肉腫患者37症例の生検標本を用い、AMBNの発現を免疫組織化学的染色にて検討したところ、AMBNの発現と肺転移との間には負の相関が、生存率との間には正の相関傾向が認められたとしている。
今回の研究により、AMBNの骨肉腫における腫瘍抑制因子としての機能が解明され、AMBNを骨肉腫患者の診断・治療に応用できる可能性が示唆された。今後、AMBNを基盤とした骨肉腫の詳細な分子機構を解明する研究が進んでいくことが期待される、と研究チームは述べている。
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・広島大学 研究成果