超高齢化社会に進んでいる日本。2025年には65歳以上の高齢者数が3,657万人、人口の30.3%を超えると見られています。高齢者が疾病を抱え、医療機関に赴くことが困難になったとき、「最期は自宅で家族と過ごしたい」と願ったとき、日本の医療環境・チームはどこまで整っているのでしょうか。
緩和ケアを中心とする在宅専門薬局で活躍をされている薬剤師 前田桂吾氏による、今、そしてこれからの在宅医療を考える連載コラムです。(掲載元:m3.com)
薬の供給を理由に、在宅医療をあきらめたくない
はじめまして。株式会社フロンティアファーマシーの前田と申します。主に緩和ケアを中心とするほぼ在宅専門薬局で勤務しております。一般的な薬局では外来調剤が中心で、そこから時間を捻出して在宅医療に取り組まれていることが多いと思いますが、私の場合はまったく逆「在宅を中心」に日々の業務に取り組んでいます。
2025年に向けて薬剤師として、薬局としてどのような行動をとっていけばよいか、現在の在宅医療が抱える問題点は何か、私が日頃考えていることをこのコラムでお伝えできれば、と思っております。
さて、私がなぜ薬剤師として在宅緩和ケアに飛び込んだのか、を簡単にご紹介します。今から約30年前、10歳の時に大病を患い入退院を繰り返したことから医療者を志し、薬学部に入りました。自分の経験を活かし、病気で辛い思いをしている子どもたちの力になれたら、との思いで卒業後すぐに病院に就職しました。
しかし運命とは不思議なもので、就職した病院に緩和ケア病棟ができることになり、緩和ケア病棟の患者さんの表情や雰囲気が、一般病棟の患者さんに比べて穏やかなことに気がつき、小児科ではなく、緩和ケアの方向へ自分の進むべき道が開けていきました。
今から約15年前にも、すでに「在宅医療を進めなければならない」ということは叫ばれていました。しかし実際には、一般病棟で疼痛コントロールがはかられた患者さんが「家に帰りたい」と希望しても、医療用麻薬の注射剤を使用していると、その患者さんの家の周りに注射剤の供給ができる薬局がなければ患者さんを家に帰すことができないのです。「きっとがんの末期の患者さんも在宅医療を受ける時がくる。その際に『薬の供給ができない』という理由で患者さんが家に帰れないことがあってはならない」と漠然と思っていたときに、今の会社と出会い転職しました。
患者さんの「時間」を奪わず、支える
私が転職した時にはすでに、在宅緩和ケア専門クリニックとの連携が始まっていました。そのクリニックの患者さんとの関わりは、長くても2か月くらい、短い場合には、訪問したその日に亡くなるという状態でした。つまり、患者さんが希望通り家に帰ってこられたとしても、患者さんやご家族が望む時間を過ごせるのはごくごくわずかだということになります。刻一刻と終わりが迫っている患者さんの貴重な時間を、「在庫がない」「これ以上在庫が増やせない」などの薬局の理屈で奪っていいのでしょうか?
私たちの薬局はこの「『時間』をいかに無駄にしないように患者さんを支えられるか?」を基準に考えていきます。入院中の患者さんが在宅医療へ移行する場合には、在宅医や訪問看護ステーション、ベッドの手配などさまざまな準備が必要なため、ある程度の時間は当然かかります。しかし少なくとも薬局としては、「医療用麻薬も医療機材などもそろっているからいつでも帰ってきてください」という姿勢を持つことが大切だと考えています。
なぜ「在宅専門薬局」なのか?
様々な事情により、すぐに退院となったとします。しかし外来調剤が中心の薬局の場合、そのスピードに対応するのは難しいと言わざるを得ません。
また医療用麻薬は国で管理されているため、流通が一般的な薬剤と異なります。卸さんに発注すればすぐに納入されるものではないのです。つまり在宅緩和ケアの患者さんをサポートするためには医療用麻薬の在庫種類をある程度常備しておく必要があります。ですが、「金庫管理が義務付けられていること」と「不良在庫」の問題が、通常の薬局では大きな障壁となります。医療用麻薬は、血中濃度を維持する徐放性の製剤と突発的な痛みなどに備える即効性の薬剤がセットで処方されます。また含量規格が数種類あるものが多く、患者さんの状態に合わせて在庫種類が急激に増えることになりかねないのです。すると金庫に入りきらないから購入できない、とか100錠包装の錠剤をせっかく買ったのに、次の処方では規格が変わってしまい前に買った薬剤が不良在庫になるなどの問題が出てきます。また、医療用麻薬にはさまざまな剤形の薬がありますが、注射剤を使用しなければならない患者さんもいらっしゃいます。このような患者さんに対応するためには無菌調剤設備を持っている必要があります。
以上のことから、都市部の一般的な薬局で在宅医療──中でも特に「緩和ケア領域」の患者さんを支えるのは難しいと考えています。そのために私たちはほぼ在宅専門薬局(もちろん外来の処方せんがきたら断りません)の形態をとることで、医療用麻薬や医療機材の処方に、ある程度即座に対応できるよう常時在庫を持ち、無菌室を完備しているのです。
次回は、どのような医療依存度でも「在宅医療」と括ってしまってよいのか?を考えたいと思います。
前田桂吾(まえだ・けいご)
株式会社フロンティアファーマシー 薬剤師 執行役員 社長室室長
北里大学薬学部薬学科卒業。中規模の病院に12年間勤め、調剤、製剤、緩和ケア病棟を含む病棟業務に携わる。その後、フロンティアファーマシーに転職。
【在宅医療における薬剤師の役割 コラム一覧(m3.com)】
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- Vol.1 在宅緩和ケアを支えられる薬局とは?
- Vol.2 患者タイプによる2つの薬局の在り方と連携
- Vol.3 薬剤師が在宅医療に関わる障壁は何か
- Vol.4 「医療」が主役ではないチーム医療を目指す
- Vol.5 患者さんとの関係性の築き方