使用環境や感度不足など課題が多い微量ウイルス粒子の検出
産業技術総合研究所は12月20日、下水の二次処理水などの夾雑物を含む試料中のごく少量のウイルスなどのバイオ物質を、夾雑物を除去せずに高感度に検出できる外力支援型近接場照明バイオセンサー「EFA-NIバイオセンサー」を開発したと発表した。この研究は、産総研電子光技術研究部門光センシンググループの藤巻真研究グループ長、安浦雅人研究員によるもの。同成果は、学術誌「Scientific Reports」電子版に12月19日付けで掲載されている。
画像はリリースより
国際的な物流や交通規模の拡大、地球温暖化に伴い、感染症の爆発的な拡散や広範囲にわたる食中毒といったリスクは増大しており、季節性インフルエンザウイルスやノロウイルスなどの感染症の拡大、麻疹の再流行、デング熱などこれまでになかったウイルス感染症の国内上陸も社会問題化。さらに、エボラウイルスのような致死率の高いウイルスに対する水際対策もさらなる強化が必要とされているなか、ウイルス感染症の予防のため、環境中にあって感染の前段階でウイルスを検出できる技術が求められている。
現在、ごく少数のウイルス粒子の検出に用いられているPCR法は実験室の清浄な環境でしか使用できないが、イムノアッセイ法はごく少数のウイルスを検知するには感度不足であり、ELISAなどの高感度なイムノアッセイは夾雑物が検出の妨げになるため、環境水などの試料では感度が出ず、操作が煩雑になるといった課題があった。
対象物を「動く光点」として検出、夾雑物から容易に識別
今回開発したEFA-NIバイオセンサーは、検出対象のバイオ物質に磁気微粒子と光を散乱する微粒子を付着させて、磁石と近接場光により「動く光点」を作って検出を行う仕組み。従来法にはない「動き」で識別することで、夾雑物が多い試料であっても極めて低濃度のバイオ物質を簡単な操作だけで検出できるという。
同研究グループは、都市下水の二次処理水200マイクロリットルにノロウイルス様粒子約80個を混入(濃度10fg/mL程度)させた試料中から、この手法によってウイルス様粒子を検出することに成功。洗浄工程を省略しても従来法より数桁高い感度で検出できることが示されたとしている。
同研究グループは、今回の成果をもとに、血中のバイオマーカーや環境中の汚染物質など幅広い分野で微量物質を検出できるセンサーシステムの実用化を目指し、現在試作機を作製中。2017年の春ごろには片手で持ち運びできる装置が完成する予定で、感染力の強いウイルスの感染予防を目標に検出感度の向上と、定量性を持たせるなど性能向上を図るとしている。
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