発症・悪化を解明するための「二重スイッチ数理モデル」を構築
理化学研究所は12月15日、アトピー性皮膚炎の発症および悪化のメカニズムを解明するための「二重スイッチ数理モデル」を構築し、コンピュータシミュレーション解析を行ったと発表した。この研究は、理研統合生命医科学研究センターサイトカイン制御研究チームの久保允人チームリーダー、統合細胞システム研究チームの岡田眞里子チームリーダー、インペリアル・カレッジ・ロンドンの田中玲子講師、ダブリン大学トリニティ・カレッジのアラン・アーヴァイン教授らの国際共同研究グループによるもの。成果は、米科学雑誌「Journal of Allergy and Clinical Immunology」に掲載されるのに先立ち、オンライン版に12月5日付けで掲載されている。
画像はリリースより
アトピー性皮膚炎は、日本を含めた先進国の乳幼児によくみられる炎症性皮膚疾患で、主な症状は、強い瘙痒感が繰り返し起こる湿疹。発症には、家族歴、アレルギー既往歴、環境要因、遺伝的要因などが関係しているが、個々の要因だけでは説明できない複雑な疾患だと考えられている。そのため、アトピー性皮膚炎の発症・悪化のメカニズムはいまだに明らかになっていない。
今回、国際共同研究グループは、そのメカニズムを解明するために、二重スイッチ数理モデルを構築し、シミュレーション解析を行った。この数理モデルでは、免疫系、皮膚バリアの機能、環境要因などの複雑な相互作用が、経時的にどのように変化しアトピー性皮膚炎の発症・悪化につながるのか、それらの相互作用が遺伝的要因によってどのように影響を受けるかを予測した。
そして、アトピー性皮膚炎のメカニズムを、発症を起こすが元に戻りうる「可逆的なスイッチ1」と、元に戻らない「非可逆的なスイッチ2」の二重スイッチで表現。具体的には、アトピー性皮膚炎の進行には、炎症を発症させるスイッチ1と2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)が活性化し症状を悪化させるスイッチ2が関わっていること、スイッチ1が頻繁にオンになるとスイッチ2がオンになると表現した。
各患者に対する必要な治療法の具体的提案が可能に
この数理モデルをシミュレーション解析した結果、臨床やマウスモデル系から得られるデータとよく一致し、二重スイッチ数理モデルの妥当性が証明された。さらに、保湿剤を皮膚に塗った乳児はアトピー性皮膚炎を発症しにくいことが臨床試験により示されているが、今回の解析によって、保湿剤を使うことで皮膚バリアを強化し、症状悪化のサイクルを止めることが効果的な予防法であること、またこの予防法が遺伝的要因の有無に関わらず全ての患者に効果的であることがわかったという。
今回の研究で構築した二重スイッチ数理モデルとコンピュータシミュレーション解析により、複雑な多因子性疾患としてのアトピー性皮膚炎の発症・悪化・予防のメカニズムを定量的に説明することが可能になった。今後、同手法を各患者データと組み合わせることにより、それぞれの患者に対する必要な治療法の具体的提案が可能になると、同研究グループは述べている。
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