障害肝から単離したThy1陽性細胞を移植、肝臓の再生を促進
札幌医科大学は12月14日、障害肝から単離したThy1陽性細胞を、肝細胞の増殖を抑制した後に肝臓の2/3を部分切除したラット肝臓に移植すると、肝臓の再生を促進することを見出したと発表した。この研究は、同大医学部附属フロンティア医学研究所組織再生学部門研究員の市戸義久らの研究グループと、国立がん研究センター研究所分子細胞治療学分野との共同研究によるもの。研究成果は「Stem Cells」オンライン版に12月7日付けで掲載されている。
画像はリリースより
現在、肝硬変などの致死的肝疾患患者には肝臓移植が行われているが、脳死移植ではドナー不足、生体肝移植では健康なヒトの体にメスを入れるといったさまざまな問題がある。肝臓移植に代わるものとして、細胞移植による再生医療に期待が寄せられているが、これまでの肝細胞移植では、移植したドナー細胞の患者の肝臓への生着率が低く、肝臓全体がドナー細胞で置換されるまでに時間がかかることが問題となっていた。
研究グループはこれまでに、細胞移植治療の細胞源として、増殖能の高い肝幹・前駆細胞と肝機能が高い成熟肝細胞のどちらが適しているか検討し、成熟肝細胞に比べ肝幹・前駆細胞は生着率が低く、生着した細胞は細胞老化に陥り、消失しやすいことを明らかにしてきた。今回、Thy1陽性細胞移植群で生着率が低いにも関わらず、レシピエントの肝臓が大きくなっていることに気づき、そのメカニズムを解明するところから研究を開始したという。
骨髄間葉系幹細胞でも再生促進作用があるか検討予定
同研究グループは、障害肝由来のThy1陽性細胞をRetrorsine/Partial Hepatectomy (Ret/PH)モデルに移植。その結果、レシピエント肝臓由来の小型肝細胞様前駆細胞(Small hepatocyte-like progenitor cells; SHPCs)の増殖が促進されたという。さらに、SHPCs増殖促進のメカニズムを解明するため肝組織からSHPCsを抽出し、細胞増殖因子受容体遺伝子をDNA microarrayで網羅的に解析したところ、Interleukin 17 receptor b (IL17rb)の発現が高いことがわかった。
そこで、レシピエント肝臓内で両サイトカインを分泌する細胞を解析したところ、SECsがIL17Bを、KCsがIL25を発現。Thy1陽性細胞が分泌するEVsが、SECsでIL17Bを、KCsでIL25を、小型肝細胞でIL17rbの発現を誘導することが明らかとなり、肝前駆細胞の培養を行う際にIL17BやIL25を加えると、増殖が促進されることがわかったという。
同研究成果は、移植細胞が放出するEVsが間質の細胞に作用して、ターゲットに内在する肝前駆細胞の増殖を促進するサイトカインを分泌させるという間接的な効果によって、肝再生を促進していることを示すもの。今回用いたThy1は、骨髄間葉系幹細胞(Bone marrow mesenchymal stem cells; BMSCs)のマーカーとしても知られていることから、今後同研究グループは、BMSCsでも同様な再生促進作用があるか検討していく予定としている。現在、同大学ではMSCsを用いた脳梗塞や脊髄損傷患者に対する再生医療を進めており、今回の研究結果が肝再生医療への臨床応用を後押しすると同研究グループは述べている。
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・札幌医科大学 プレスリリース