先行投射は新たなシナプス形成のガイド役
大阪大学は12月13日、神経回路ができていく時に、先にできた余分な回路を整理しながら、それが足がかりとなって、新たな回路の形成を促す可能性があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の木村文隆准教授(分子神経科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、欧州神経科学学会誌「European Journal of Neuroscience」オンライン版で公開されている。
画像はリリースより
視覚や聴覚など外界からの感覚情報は視床に集まり、神経細胞は突起を伸ばして(投射)視床から大脳皮質へ情報を送る。この神経回路のネットワークは発達に伴って形成・再編されるが、その詳しいメカニズムはわかっていなかった。
これまでに研究グループは、未熟な大脳皮質では、一旦広く投射ができた後、大脳皮質の成長に伴って4層、2/3層ができる頃から2/3層への不要な投射が削られていくこと(刈り込み)、視床と2/3層の細胞がほぼ同時に活動したときには、カンナビノイドの受容体が働いて神経細胞間のシナプスの強度が低下し、同時に刈り込みが起こること、4層の細胞は2/3層への神経接続を作り始めており、4層と2/3層の細胞がほぼ同時に活動したときにシナプスの強度が上昇することを明らかにしていた。
神経の刈り込みにカンナビノイドが関与、神経回路形成にも影響
今回、同研究グループは視床が4層にも投射していることに着目し、視床線維の刈り込みと4層細胞のシナプス形成が同時進行している可能性を検証。生後2週間のマウスの視床と2/3層に、ほぼ同期する活動を与えてシナプス弱化を起こしたところ、直接操作をしていないにもかかわらず、4層と2/3層の細胞間にはシナプス強化が起こっていたことがわかったという。先行投射(視床-2/3層投射)が次の神経接続のための足がかりとなり、撤退しつつ4層細胞に2/3層へのシナプス形成を促すガイドの役割を果たし、自動的に神経回路の形成が進むことが伺えるとしている。
視床—2/3層シナプスの弱化と刈り込みは、シナプス部のカンナビノイド受容体の働きによって起こることから、大麻などのカンナビノイド成分が含まれる化合物摂取により、カンナビノイド受容体を視床細胞の神経活動と無関係に活性化し、視床-2/3層投射に刈り込みだけが起きて、4層-2/3層投射形成が同時に起こらず、足がかりを失った4層-2/3層投射は正常な回路を形成できない可能性が考えられるという。これにより、カンナビノイド受容体を持たない神経回路にも異常が出る可能性も示唆された。
同研究グループは、神経回路形成メカニズムの理解がさらに進むことともに、カンナビノイド成分が含まれる大麻などの摂取がカンナビノイド受容体を持たない神経の発達にも影響を与える可能性があることから、大麻や危険ドラッグの乱用減少の啓発にも貢献することが期待されるとしている。
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