点眼だけでは有効濃度の薬剤が網膜へ到達しにくいという課題の克服へ
東北大学は12月13日、網膜色素変性症動物モデル(変異型ロドプシン遺伝子P347Lトランスジェニックウサギ)に対する薬剤(ウノプロストン)徐放デバイスの網膜保護効果を報告したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科 細胞治療分野の阿部俊明教授らの研究グループによるもの。同研究成果は、「Investigative Ophthalmology & Visual Science」(電子版)に12月1日付けで掲載されている。
画像はリリースより
網膜色素変性症は夜盲と視野狭窄を主症状とする遺伝性の網膜疾患で、長い年月を経て中心視力も徐々に障害され、場合によっては失明に至る。確立された治療法はなく、日本では特定疾患に指定されている。近年、緑内障の治療薬であるウノプロストンが視細胞を直接的に保護することで、網膜の錐体細胞の変性を抑制する可能性があると報告されていた。しかし、点眼による治療は、患者の治療への理解と積極的な意思に依存するうえ、点眼のみでは有効な濃度の薬剤が網膜へ到達しにくいという課題があった。
網膜色素変性症の効果的な治療法開発に貢献
そこで研究グループは、ウノプロストンを徐々に放出する徐放化デバイスを作成し、後眼部の強膜上に留置して、錐体細胞が集まっている網膜の中心部(黄斑部局所)に薬物を送る方法を検討。徐放デバイスは、CAD-CAMを利用した3Dプリンターで光硬化性樹脂を3次元成型して作成したという。デバイスは、リザーバー、薬物、徐放膜から構成され、徐放膜には分子量の異なる2種類の光硬化性樹脂を混合して、ウノプロストンが徐々に放出されるよう工夫したという。
網膜色素変性症のモデル動物であるトランスジェニックウサギの強膜上にウノプロストン徐放デバイスを留置し、網膜電図、光干渉断層計を4週間おきに40週間評価した結果、埋植後32週間まで、視細胞の変性がプラセボデバイスおよび未処置群と比較して有意に抑制されていた。また、眼内のウノプロストン量を測定装置(LC/MS/MS)で定量した結果、眼内にウノプロストンが持続的に検出されたという。
以上の結果から、ウノプロストン徐放デバイスは32週間の長期にわたって網膜変性から視細胞を保護することが示唆された。同研究グループは、網膜色素変性症の効果的な治療法開発に向けて、来年度から治験が始まる予定としている。
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