新しいタイプの薬剤耐性メカニズム無効化に挑戦
千葉大学は12月9日、重篤な肺感染症を引き起こす病原性の真菌で、世界中で急速に拡大しているタイプの薬剤耐性メカニズムを、制御因子の遺伝子変異により無効にできることを実証したと発表した。この研究は、同大学真菌医学研究センターの萩原大祐特任助教、渡邉哲准教授、亀井克彦教授の研究グループによるもの。研究成果は英科学誌「Scientific Reports」オンライン版に同日付けで掲載されている。
画像はリリースより
アスペルギルス・フミガタスは肺感染症を引き起こす真菌で、治療が遅れると命に関わる病原性の強い病原真菌。しかし、治療に用いられる抗真菌薬(アゾール薬)に対して耐性を示す菌株が、欧州を発端として多く見つかるようになり、日本でも2013年にこの新しいタイプの薬剤耐性株が初めて見つかり、大きな脅威となっている。今回の研究では、この新興の薬剤耐性メカニズムを無効にする手法を編み出し、新たな薬剤開発に繋げることを目指したという。
薬剤耐性菌に打ち勝つ新規薬剤開発に期待
この新しいタイプのアゾール薬耐性株では、アゾール薬の標的分子であるタンパク質「Cyp51A」の発現が異常に高くなっていることが知られている。そこで、同研究グループはCyp51Aの発現に関与するSrbAの遺伝子を破壊した変異株を作製。得られた遺伝子変異株では、Cyp51Aの発現が顕著に低下し、もともとの薬剤耐性株に比べ、各種医療用アゾール薬に対して8~64倍以上も感受性が増すことが判明したという。これらの薬剤感受性レベルは、本来の投薬で治療効果が期待できる水準を満たすことから、SrbAを機能させなくすることで、耐性メカニズムを無効化できることが世界で初めて実証された。
病原真菌の薬剤耐性株はすでに世界中へと広まっているが、使用できる薬剤が限られており、対策はまだ十分ではない。SrbAの機能を阻害する薬剤が見つかれば、アゾール薬の効果を劇的に高め、耐性株に感染した場合の新しい治療法の確立に繋がることが期待される。
また、農作物に甚大な被害を及ぼす植物病原菌でも、同様のメカニズムによってアゾール系の農薬に耐性を示すことが知られていることから、今回の研究成果は、病原菌から農作物を保護する際にもSrbAが重要な因子となる可能性を示唆している。これらの成果を基に、研究グループは今後、医療や農業の現場で問題となる薬剤耐性菌を制御する新しい薬剤の開発に取り組んでいきたいとしている。
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