選択的な結合形成における新たな分子機構を提唱
生理学研究所(NiPS)は12月8日、マウスを用いて同じ神経幹細胞から生まれた神経細胞がシナプス結合する過程を詳しく調べた結果、同じ神経幹細胞から生まれた神経細胞同士が優先的にシナプス結合を形成しあっていることを証明したと発表した。この研究は、同研究所の足澤悦子特任助教、吉村由美子教授、平林真澄准教授らと、大阪大学大学院生命機能研究科の八木健教授との共同研究によるもの。研究結果は、英科学誌「BMC Biology」誌に掲載されている。
画像はリリースより
脳の正常な発達はシナプス結合から始まるが、これまでの研究から胎生期に同じ神経幹細胞から生まれた姉妹神経細胞は、生後の発達過程においてシナプス結合を形成しやすいことが報告されていた。生後のシナプス結合の形成には、胎生期の遺伝子プログラミングが深く関与していると考えられるが、その詳しい遺伝子制御や分子メカニズムについては未解明だったという。
今回同研究グループは、生後発達期のマウスの大脳皮質体性感覚野に着目し、この領域のシナプス結合を詳細に解析した結果、ふたつの姉妹細胞が互いにシナプス結合を形成する双方向性シナプス結合の関係にあることを発見。この双方向性シナプス結合は脳内の情報処理メカニズムにおいて大変重要な結合と考えられるという。
姉妹細胞間の双方向性シナプス結合形成に関わる分子も同定
さらに胎生期にのみ存在し、遺伝子の発現を制御する酵素である「DNAメチル化酵素」(Dnmt3b)による遺伝子発現制御が、双方向性シナプス結合の形成に必要であることが、Dnmt3b遺伝子欠損マウスのシナプス結合を解析することで明らかとなった。Dnmt3bは、胎生期の大脳皮質の発生初期にしか働いていないにも関わらず、胎生期の遺伝子発現制御が生後のシナプス結合形成にまで影響を与えることになる。これは生後の神経ネットワークの形成に、胎生期の遺伝子発現制御が関わることを証明した、世界初の発見という。
さらに同研究グループは、このDnmt3bが制御する膨大な量の遺伝子発現の中から、特に姉妹細胞間の双方向性シナプス結合の形成に関わる重要な分子の同定に成功。生後の大脳皮質において姉妹神経細胞が互いを認識する分子機構に細胞接着因子であるクラスター型プロトカドヘリンが関与することがわかったという。
今回の研究成果により、遺伝子プログラミングにより形成されるシナプス結合の分子機構の一端を明らかになった。今回対象とした分子の異常が発達障害の原因になると報告されているため、病態メカニズムの理解、治療法の開発に役立つと期待される。
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・生理学研究所(NiPS) プレスリリース