地球上のすべての生物に対し日常的に影響を与えるメカニカルストレス
生理学研究所は12月8日、地球の重力や生体の運動に伴う進展・圧縮刺激など、地球上のすべての生物に対し日常的に影響を与える機械刺激(メカニカルストレス)が脳細胞へ与える影響の一端を解明したと発表した。この研究は、生理学研の清水健史助教、池中一裕教授、慶應義塾大学医学部の田中謙二准教授、新潟大学脳研究所の崎村建司教授らの共同研究グループによるもの。研究結果は、「GLIA」オンライン版に掲11月3日付で載されている。
画像はリリースより
メカニカルストレスは、心臓や血管、呼吸器、骨、骨格筋および他の組織の機能にさまざまな影響を与えていると考えられている。また、ひとつの受精卵から成体が形成される発生期には、細胞同士の接着や細胞の伸展による力が細胞内で発生しているため、生体の恒常性の維持や個体発生に関わるファクターとして、メカニカルストレスが非常に重要な役割を果たしていると考えられる。
脳内では、情報の伝達を行う神経細胞のほかに、神経細胞をサポートする働きを持つグリア細胞が存在する。そのグリア細胞の一種である「オリゴデンドロサイト」は、神経細胞の突起の周りに、髄鞘と呼ばれる特殊な構造物を形成することが知られている。このオリゴデンドロサイトは髄鞘形成に伴い、その形を多様に変化させるが、どのような形に変化するかは、髄鞘を形成する相手の神経の軸索との間に行われるコミュニケーションが重要であることがわかっている。このオリゴデンドロサイトの形態の制御のメカニズムは、これまでは主に化学的な分子を介したものであると考えられてきたが、近年メカニカルストレスの存在が強く影響している可能性があることがわかってきた。
多発性硬化症の治療や原因究明に役立つ可能性
今回、研究グループは、細胞が受けたメカニカルストレスを細胞内への特殊な信号として変換し、それを伝える担い手の因子のひとつ「YAP」と呼ばれるタンパク質に着目した。細胞に機械的刺激を加える実験や、YAP因子の活性を操作できる遺伝子改変マウスを新たに作製し、解析。その結果、メカニカルストレスを受けたYAP因子が、オリゴデンドロサイトの形や成熟の度合いを制御していることが明らかになったとしている。
今回の研究結果から、オリゴデンドロサイトが髄鞘を形成するには、従来から知られていた化学的な因子だけでなく、メカニカルストレスが強く影響を与えていることがわかった。今回の発見は、髄鞘に異常が認められる多発性硬化症など、さまざまな疾患の治療や原因究明に役立つと考えられると、共同研究グループは述べている。
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・生理学研究所 プレスリリース