原因遺伝子が同定されていないものも多い原発性免疫不全症
東京医科歯科大学は12月6日、TNFAIP3変異による自己免疫性リンパ増殖症候群と、IKZF1変異による自己免疫疾患を伴う無ガンマグロブリン血症の2つの新たな原発性免疫不全症を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科発生発達病態学分野の森尾友宏教授と金兼弘和准教授、茨城県小児周産期地域医療学講座の高木正稔准教授、生涯免疫難病学講座の星野顕宏助教の研究グループが、京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学講座、名古屋大学大学院医学系研究科小児科学講座、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターなどと共同で行ったもの。研究成果は国際科学誌「Journal of Allergy and Clinical Immunology」オンライン版に掲載されている。
原発性免疫不全症は感染症にかかりやすいだけでなく、自己免疫疾患や悪性腫瘍を合併しやすく、適切な治療がなされないと、さまざまな感染症や合併症に罹患し、生命を脅かしたり、生活に支障をきたす障害を残す危険もある。原発性免疫不全症の原因遺伝子はこれまで300種類以上が知られているが、いまだに原因遺伝子が同定されていないものも多い。
原因不明の原発性免疫不全症の診断が可能に。治療法開発へ期待
自己免疫性リンパ増殖症候群は自己免疫性汎血球減少とリンパ増殖を特徴とするまれな原発性免疫不全症。ほとんどはFAS遺伝子あるいはその関連遺伝子の変異によって発症するが、一部は原因不明とされていた。今回、臨床的に自己免疫性リンパ増殖症候群と診断された1歳男児の全エキソーム解析を実施し、A20をコードするTNFAIP3変異を同定。A20はNF-κB経路を負に制御する分子で、この変異体によるNF-κBの活性亢進が実験レベルで証明されたという。A20欠損による家族性ベーチェット病などの家族性自己炎症性疾患が報告されているが、A20欠損による自己免疫性リンパ増殖症候群の発見は世界初。
一方、IKZF1遺伝子によってコードされるIkarosは造血に関わる重要な転写因子だが、IKZF1の体細胞変異が急性リンパ性白血病の発症に関わることが明らかとなり、最近IKZF1の生殖細胞変異による無ガンマグロブリン血症が報告されていた。研究グループは原因不明の無ガンマグロブリン血症や自己免疫疾患を発症している患者の原因遺伝子を全エキソーム解析などで調査。その過程で6家系9例の患者にIKZF1の生殖細胞変異があることを同定。発症年齢は0~20歳(平均7.4歳)で、8例ではB細胞欠損無ガンマグロブリン血症を呈し、4例では免疫性血小板減少性紫斑病、IgA血管炎、全身性エリテマトーデスを含む自己免疫疾患を合併、汎血球減少が1例で認めらたという。すべてのIkaros変異蛋白はDNA結合能が低下、細胞内で異常な局在を示し、IKZF1の生殖細胞変異はB細胞欠損と自己免疫を伴う新たな原発性免疫不全症であることが明らかとなったという。
同研究グループは、今回の発見により原因不明の原発性免疫不全症の患者の診断が可能となるとともに、最適な治療法選択への道が開かれた。免疫不全症のみならず自己免疫疾患の病態解明と新規治療法開発への応用が期待できると述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース