治験の倫理審査をめぐっては、2008年3月のGCP改正により、IRBを医療機関に設置する義務が廃止されたが、未だに倫理審査委員会の乱立や審査の質の不均一、それに伴うリソース消耗など多重審査の問題が指摘されている。
今回の調査は、研究倫理審査の現状把握を目的に、稲野氏が日本製薬工業協会医薬品評価委員会臨床評価部会、日本医師会治験促進センターに協力を要請し、全体を把握しやすい「治験」での倫理審査体制を調べたもの。11~15年度にデータ固定された569本の企業治験、日医治験促進センターが10~14年度に開始した医師主導治験臨床試験21本を集計の対象にし、臨床試験ごとにIRBを外部委託する医療機関比率を示した脱施設率、1IRBあたりの症例数など、研究倫理審査の効率性を示すと思われる数値を算出した。
脱施設率は、試験参加施設数から自施設以外のIRB利用施設数を割った数値を算出。臨床試験開始年ごとに企業治験の脱施設率を算出したところ、08年に開始した臨床試験では19%だったのが、13年には51%と5割を突破していた。第II相試験では、08年の19%から13年には46%、第III相試験では08年の18%から13年には64%と開発相が進むほどに脱施設率は高くなっていた。その一方、第I相試験は未だに低い割合にとどまり、第III相でも脱施設率が0~25%と低率にとどまる試験が一定程度見られた。
疾患別では、泌尿器科の治験がIRBの脱施設率で66%と最も高かった一方、プロジェクトが急増している癌領域の治験ではわずか6.5%と低く、疾患でバラツキが見られた。
また、医師主導の多施設共同治験では、21本中20本が自施設で倫理審査を行っており、IRBの脱施設化が進む企業治験とは対照的な結果となった。
稲野氏は、厚生労働省の調査で1施設1IRBに約24万円がかかっているという試算をもとに、この5年間で実施された6施設以上を対象とした多施設共同臨床試験で、各施設のIRBによる多重審査で費やされたコストが少なくとも19億4742万円に上ると試算した。
病院が多額の人件費を捻出し、多くの倫理審査を自施設で実施していることについて、「コストを回収できているかが疑問。病院の中のリソースがこれだけ使われていることを考慮すべき」と述べ、今後臨床研究を推進していくためにも、IRBの集約化が必要との認識を示した。