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国内治験の多重倫理審査、5年間で約20億円の出費-福島医大・稲野氏ら調査

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2016年12月07日 AM10:00

過去5年間で実施された約600本の多施設共同臨床試験を対象に、治験の倫理性や科学的妥当性をチェックする倫理審査の多重審査でかかる人件費を調べたところ、全体で約20億円に上ることが、福島県立医科大学病院臨床研究センターの稲野彰洋氏らが行った調査で明らかになった。多施設共同治験に参加した医療機関が自施設以外の倫理審査委員会()を利用する“IRBの脱施設率”は5割を超えていたが、癌領域の治験、第I相試験、医師主導治験では、ほぼ自施設で倫理審査を行っており、多重審査によるコスト増や生産性の低下を招く要因になっていた。

治験の倫理審査をめぐっては、2008年3月のGCP改正により、IRBを医療機関に設置する義務が廃止されたが、未だに倫理審査委員会の乱立や審査の質の不均一、それに伴うリソース消耗など多重審査の問題が指摘されている。

今回の調査は、研究倫理審査の現状把握を目的に、稲野氏が日本製薬工業協会医薬品評価委員会臨床評価部会、日本医師会治験促進センターに協力を要請し、全体を把握しやすい「治験」での倫理審査体制を調べたもの。11~15年度にデータ固定された569本の企業治験、日医治験促進センターが10~14年度に開始した医師主導治験臨床試験21本を集計の対象にし、臨床試験ごとにIRBを外部委託する医療機関比率を示した脱施設率、1IRBあたりの症例数など、研究倫理審査の効率性を示すと思われる数値を算出した。

脱施設率は、試験参加施設数から自施設以外のIRB利用施設数を割った数値を算出。臨床試験開始年ごとに企業治験の脱施設率を算出したところ、08年に開始した臨床試験では19%だったのが、13年には51%と5割を突破していた。第II相試験では、08年の19%から13年には46%、第III相試験では08年の18%から13年には64%と開発相が進むほどに脱施設率は高くなっていた。その一方、第I相試験は未だに低い割合にとどまり、第III相でも脱施設率が0~25%と低率にとどまる試験が一定程度見られた。

疾患別では、泌尿器科の治験がIRBの脱施設率で66%と最も高かった一方、プロジェクトが急増している癌領域の治験ではわずか6.5%と低く、疾患でバラツキが見られた。

また、医師主導の多施設共同治験では、21本中20本が自施設で倫理審査を行っており、IRBの脱施設化が進む企業治験とは対照的な結果となった。

稲野氏は、厚生労働省の調査で1施設1IRBに約24万円がかかっているという試算をもとに、この5年間で実施された6施設以上を対象とした多施設共同臨床試験で、各施設のIRBによる多重審査で費やされたコストが少なくとも19億4742万円に上ると試算した。

病院が多額の人件費を捻出し、多くの倫理審査を自施設で実施していることについて、「コストを回収できているかが疑問。病院の中のリソースがこれだけ使われていることを考慮すべき」と述べ、今後臨床研究を推進していくためにも、IRBの集約化が必要との認識を示した。

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