原因となる遺伝子異常が不明な遺伝性のないTSH産生腫瘍
群馬大学は12月2日、甲状腺刺激ホルモン(TSH)産生下垂体腫瘍における新たな疾患原因遺伝子変異となりうる6種類の遺伝子変異を発見し、遺伝子コピー数の異常を中心とした遺伝学的な背景を明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科病態制御内科学の山田正信教授らの研究グループが、同大学大学院医学系研究科脳神経外科学の登坂雅彦講師、虎の門病院間脳下垂体外科の山田正三副院長と共同で行ったもの。研究成果は、国際雑誌「Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
TSH産生下垂体腫瘍は、全下垂体腫瘍の0.5~2.8%と非常に稀な腫瘍。TSHの分泌が増加することにより甲状腺からの甲状腺ホルモンの過剰による動悸、発汗過多などの症状が出現し、腫瘍が大きい場合、視野の異常や頭痛といった症状が出現する。遺伝性の腫瘍を起こす疾患の一部でTSH産生腫瘍が起こることは知られていたが、遺伝性のない(散発性)TSH産生腫瘍では、これまで関連が疑われる遺伝子の変異検索が行われてきたものの、非常に稀な病気で多数例を使用した検討が極めて難しいことから、明らかな原因となる遺伝子異常はわからなかった。
TSH産生下垂体腫瘍12例を用いて、染色体コピー数の多型と全エクソン解析
研究グループは今回、TSH産生下垂体腫瘍12例を用いて、染色体コピー数の多型と全エクソン解析を行った。まず、8例の腫瘍におけるコピー数多型解析を行ったところ、TSH産生下垂体腫瘍では、染色体上で正常よりも遺伝子コピー数が増加している部位が多数あることがわかった。また、コピー数が減少しないヘテロ接合性の消失(LOH)を大きな遺伝子領域に持つ腫瘍が8例中4例にも見られ、これらの例では、この領域に含まれる遺伝子の発現量が変化することにより腫瘍の発生へ関与している可能性が考えられた。
次にLOHのない4例について、血液より抽出したDNAと、腫瘍細胞から抽出したDNAの全エクソン解析を行い、腫瘍細胞の中でのみ起こっている遺伝子変異を検索したところ、蛋白質の合成に影響を与え、これまで報告のない新しい遺伝子変異が6種類の遺伝子を発見。これらの遺伝子変異について、他の12例のTSH産生下垂体腫瘍においても検索を行ったが、同じ遺伝子変異は発見できなかった。しかし、今回の研究では、非常に稀な病気であるTSH産生下垂体腫瘍の原因となる可能性のある新規遺伝子変異を発見し、また、遺伝子全体のコピー数の異常が明らかとなったとしている。
今後のさらなる病気の原因の解明につながり、新たな治療法や診断法の開発の端緒となることが期待されると、研究グループは述べている。
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