腸内細菌叢の変化を確認、新たな腸内細菌療法として期待
順天堂大学は12月1日、潰瘍性大腸炎に対する抗生剤併用便移植療法の有効性が明らかになりつつあると発表した。この研究は、同大大学院医学研究科・消化器内科学講座(渡辺純夫教授)の石川大准教授ら研究グループが、2014年7月から行っているもの。研究結果は、米学会誌「Inflammatory Bowel Disease」電子版に11月22日付で掲載されている。
画像はリリースより
難病指定疾患である潰瘍性大腸炎については、新規薬物療法の登場で治療効果は飛躍的に向上したものの、長期使用による副作用発生のリスクもあり、長期予後の改善については未だ不透明な部分が多い。
便移植療法は副作用の少ない治療法として注目され、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染性腸炎への適用では、高い奏功率を示したとの報告が寄せられている。そのほか、糖尿病やメタボリックシンドロームなど代謝疾患に対しても積極的に臨床研究が行われているが、潰瘍性大腸炎に対する便移植療法のランダム化比較試験では、治療効果が十分でない、または効果がないとの報告もあり、従来の方法では治療効果は不十分とされてきた。
腸内細菌-免疫応答のメカニズム解明目指す
研究グループは、より効果的な腸内細菌叢の再構築と便移植療法の効果増強を狙い、便移植前に前処置として抗生剤3種類(AFM:アモキシシリン、ホスミシン、メトロニダゾール)を投与する「抗生剤併用便 移植療法」を提唱し、2014年7月から臨床研究「潰瘍性大腸炎に対する抗生剤療法併用便移植療法の有効性の検討」を開始した。
この研究では、41例の潰瘍性大腸炎の患者を対象に抗生剤併用便移植療法(21例)、抗生剤単独(20例)の治療を実施。治療経過中の腸内細菌叢の変化について次世代シーケンサーを用いて解析した。その結果、抗生剤併用便移植した21人の患者中17人が治療を完遂し、14人(有効率82.4%)に有効性を認められたという。一方の抗生剤単独群では、20人中19人が治療を完遂し、有効性を認めたのが13人(68.3%)であり、治療後4週間の経過においては、抗生剤併用便移植の治療効果が高いことが明らかになった。さらに、腸内細菌のバクテロイデス門が治療効果と潰瘍性大腸炎の病勢に関連することが認められたとしている。
これらの結果は、抗生剤併用療法が便移植による腸内細菌の移植、定着に一定の効果があり、有効な治療法になりうる可能性を示した。研究グループは、今後さらに腸内細菌の分析を進めていくことで、治療に関連する有効な細菌種の同定と、腸内細菌-免疫応答のメカニズムを解明することを目指していきたいとしている。
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・順天堂大学 プレスリリース