精神科領域における遠隔医療の有用性を国内で初めて実証
慶應義塾大学は11月30日、遠隔医療の有用性を臨床研究として国内で初めて実証した研究結果を発表した。この研究は、同大学医学部精神・神経科学教室の岸本泰士郎専任講師らによるもので、科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の支援およびファイザーヘルスリサーチ振興財団の援助を受けて行われた。また、シスコシステムズ合同会社、株式会社IIJグローバルソリューションズの技術的支援を一部受けている。
現在、精神科患者数は全国で700万人以上と推定され、増加の一途をたどっている。しかし、高齢化、医師の偏在、あるいは症状から外出しにくくなるなど、専門性の高い診断や治療が受けづらい患者は少なくなかった。精神科診療は互いの顔を見ながら話ができれば診療の大部分が成り立つため、テレビ電話などの情報通信技術が応用しやすい領域といえ、これらの問題を解決する手段になり得る。その一方で、このような医療を導入するためには、遠隔で行う診断精度や治療成績が、対面で行う通常の治療と同等あるいはそれ以上であることを科学的に証明する必要があった。
ビデオ会議システムとWEB会議システムを用いて、遠隔医療の有用性を検証
研究グループは、国内初の試みとして、「診断」「治療」という2つの診療場面において、遠隔医療の有用性を検証した。まず、「研究1」では、高精細で遅延の少ない映像や音声を届けるビデオ会議システムを用いて、改訂長谷川式簡易知能評価スケールを遠隔で実施。この試験には、60歳以上のアルツハイマー型認知症患者、軽度認知障害者、健常者、合計30名が研究に参加し、対面と遠隔で行った検査スコアを比較した。その結果、非常に高いスコアの一致率が証明されたという。
また、遠隔で行った強迫症に対する曝露反応妨害法について調べた「研究2」では、通常のインターネット回線を用いるWEB会議システムで、病院と患者宅をつなぎ、医師が自宅にいる患者を治療する試験が行われた。この研究には、不潔恐怖などの症状のある強迫症の患者3名が参加。恐怖の対象に少しずつ慣れていく曝露反応妨害法という心理治療を行ったところ、3名とも一定の治療効果が認められ、中には通常の対面治療で十分な効果が得られなかった患者が、遠隔治療で劇的に症状が改善するケースもあったという。
今回の研究により、病院に専門家がいない場合や、患者が外出できず受診が困難な場合でも、遠隔で行う診療が有用であることが示された。諸外国の一部では、既に遠隔で行う精神科医療が普及しつつある。高齢化、医師の偏在、引きこもりなど、多くの問題を抱える日本でも、今後、遠隔医療の役割が高まることが予想される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・慶應義塾大学 プレスリリース