細菌が自殺することで毒素を外界へ漏出
新潟大学は11月25日、肺炎球菌が感染した際に肺組織が傷害されるメカニズムを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科微生物感染症学分野の土門久哲助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
国内の肺炎による年間死亡者は約12万人、死因の第3位であり、その95%を65歳以上が占める。肺炎球菌に感染し肺炎が重症化すると、肺が傷害を受けるが、そのメカニズムとして生体側の過剰な免疫応答による傷害と、肺炎球菌の保有する毒素による傷害が考えられていた。しかし、両者の関係性は明らかになっていなかった。
肺炎球菌は、細菌内部にニューモリシンという毒素を持っているが、その毒素をヒトに向けて放出するポンプ装置を持っていない。そこで研究グループは、細菌が“自殺”することで毒素を外界へ漏出させることを示した。次に、肺に浸潤した免疫細胞である好中球をターゲットにしているのではないかと仮説を立て検証。その結果、ニューモリシンを好中球に作用させると細胞膜を融解し、エラスターゼと呼ばれる酵素を漏出させることが明らかとなった。
肺炎の年間国民医療費3000億円以上、医療費削減も目標に
また、肺胞上皮細胞にエラスターゼを作用させると、細胞間の接着がバラバラになり、剥離する様子も観察された。エラスターゼをマクロファージに作用させると、異物を飲み込む作用(貪食作用)が阻害されることも明らかとし、肺炎球菌は、エラスターゼに殺菌されないタイプの細菌であることも示されたとしている。
これらの結果から、肺炎球菌は自殺することで菌体からニューモリシンと呼ばれる毒素を放出し、好中球を攻撃してエラスターゼを細胞外に漏出させることが明らかとなった。エラスターゼは肺胞上皮によるバリアを崩壊させるとともに、マクロファージによる貪食作用を阻害することにより、さらなる感染拡大および肺組織傷害を達成することが判明した。
今回の研究成果により、肺炎球菌は、自己溶菌によるニューモリシン放出に始まり、好中球の細胞死とエラスターゼの漏出を経て肺組織傷害および感染拡大することが明らかになった。今後、研究グループは、これら各ステップに対する阻害剤を探索し、肺炎の新たな治療法の発見に向けて研究を行う予定。肺炎に対する年間の国民医療費は3000億円以上と試算されており、肺炎研究により将来的な医療費の削減、患者の症状軽減にも寄与し、社会的な貢献を果たすことを目標とすると、研究グループは述べている。
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