新規治療法に関する記述を追加した診断・治療ハンドブック第2版刊行
ライソゾーム病のひとつで、先天性の脂質代謝異常症であるゴーシェ病。ライソゾーム酵素であるグルコセレブロシダーゼ活性の低下または欠如が原因で、国内での発症頻度は年間50~100万人に1人、患者数は33万人に1人と推定されている。
基質の糖脂質グルコセレブロシドが分解されずに進行性にマクロファージなどの細胞内皮系に蓄積し、肝脾腫、貧血、血小板減少、ゴーシェ細胞の出現、骨痛、病的骨折などを呈するほか、細胞内皮系の炎症によりACE値、ACP値の上昇、グルコシルスフィンゴシンの脳内蓄積により中枢神経症状を発症。主症状としては、肝脾腫、腹部膨満、貧血などの全身症状、ゴーシェ細胞の骨髄浸潤、骨量減少、骨壊死などの骨症状に加え、2型と3型では喘鳴、痙攣、斜視、眼球運動失効などの神経症状がみられる。
そのゴーシェ病の診断・治療ハンドブック第2版(ゴーシェ病 診断・治療ハンドブック編集委員会編 神陵文庫)が刊行されることを受け、サノフィ株式会社は11月29日、同疾患に関するメディアラウンドテーブルを開催。東京慈恵医科大学小児科学講座主任教授の井田博幸氏と、昭和大学藤が丘病院血液内科准教授の原田浩史氏が講演した。
神経症状を有し、重症例も多い日本のゴーシェ病患者
ゴーシェ病の臨床病型は神経症状の有無と重症度から、慢性的な経過を辿り神経症状を呈さず予後も良好な1型(慢性非神経型)、乳児のうちに発症し神経症状が強く予後不良な2型(急性神経型)、乳児~学童期に発症し軽度から重度の神経症状を呈する3型(亜急性神経型)の3つに分類される。海外では患者の92%が1型であるのに対し、日本人患者は2型(34.7%)と3型(27.9%)が比較的多く、37.4%を占める1型の場合も進行性で重症化する例が多いという。こうした臨床病型の違いは、原因となる遺伝子変異の分布が異なるため。グルコセレブロシダーゼ遺伝子には300超の遺伝子変異が報告されており、ゴーシェ病有病率の高いユダヤ人ではN370Sが69.8%を占め、慢性で軽症傾向の1型が多いのに対し、日本ではL444P(36.5%)、F213I(17.2%)、D409H(5.2%)、R463C(1.0%)などの変異がみられ、N370S変異はみられないという。
ゴーシェ病が疑われた場合には、血液検査、画像診断、骨髄穿刺を行い、グルコセレブロシダーゼ活性検査で活性の低下が認められ、遺伝子検査で遺伝子変異が確認されれば確定診断となる。治療は、2015年から使用可能になった経口薬でグルコシルセラミドの合成を阻害する「基質合成抑制療法」と、点滴静注でグルコシルセラミドの分解を促進する「酵素補充療法」があり、井田氏によると、治療によって症状の緩和とQOLの改善を得ることができることから、ゴーシェ病は早期診断、早期治療が重要であるという。
早期診断、早期治療で骨病変の進行を抑える
昭和大学藤が丘病院 血液内科
准教授 原田浩史氏
血液内科医である原田氏からは、3型ゴーシェ病の成人患者で脾臓摘出の既往がある自験例が紹介された。脾臓摘出は骨病変を悪化させる可能性があり、この症例では酵素補充療法により肝腫大と臨床検査値の改善がみられたものの、すでに脾臓が摘出されていたため骨病変の進行を阻止できず、大腿骨を骨折、背骨も曲がってしまっているという。
原田氏は、ゴーシェ病の診断後早期(2年未満)に酵素補充療法を開始した患者では、2年以上の患者に比べ、虚血性骨壊死の発生頻度が有意に低下し、発生リスクが41%抑制された(p=0.0343)という海外の試験結果を紹介1)。ゴーシェ病の治療開始が早ければ骨病変の進行を遅らせることができ、予後を改善できることを指摘した。しかし、この同じ報告では、血液内科医におけるゴーシェ病の認知度は高くなく、日本人50名を含む世界406名の血液内科医を対象に、「42歳男性、貧血、血小板減少、肝腫大、脾腫、急性または慢性骨痛を認めた場合にどのような疾患が関連していると思うか」を調査した結果、白血病(65%)、リンパ腫(36%)、多発性骨髄腫(22%)に比べ、ゴーシェ病は20%と、8割の血液内科医が思い至っていないことが示されており、そもそもゴーシェ病が鑑別にあげられていない可能性があるという。
脾腫と血小板減少を有する患者におけるゴーシェ病の有病率は3.6%という報告もあることから2)、原田氏は、「ゴーシェ病はその症状が血液疾患と類似しているために、診断されずに治療を受けていない患者がいるかもしれない」と指摘。米国では、ゴーシェ病患者の86%が血液内科医の診察を受けていることから3)、血液内科医の責任は重大で、脾腫と血小板減少を認める患者にはゴーシェ病を考慮することの重要性を訴えた。
1) Mistry PK et al.:Br J Haematol. 2009;147(4):561-570.
2) Motta I et al.:Eur J Haematol. 2016;96(4):352-359.
3) Mistry PK et al.:Am J Hematol. 2007;82(8):687-701.
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