先天性腎性尿崩症、脱水でも適切に尿量減らすことできず
東京医科歯科大学は11月28日、腎臓において尿濃縮に重要なAQP2水チャネルの新たな制御機構を発見したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の内田信一教授、安藤史顕大学院生の研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Nature Communications」オンライン版に同日付けで発表されている。
画像はリリースより
体内の水分が失われ脱水になると、脱水の進行を防ぐために尿量が減少し水分を体内へ保持しようとする。尿量の調節は主に腎臓の集合管細胞で行われており、水の通り道である AQP2水チャネルを細胞の表面へ運ぶことが、水分の保持と尿量減少に必要となる。
抗利尿ホルモンであるバゾプレシンは、cAMP/PKAを活性化し強力にAQP2を細胞表面へ誘導するが、先天性腎性尿崩症ではバゾプレシン受容体の機能が失われており、脱水にもかかわらず適切に尿量を減らすことができない。先天性腎性尿崩症の治療には、バゾプレシン以外のAQP2制御メカニズムを明らかにする必要があるが、その詳細な機序は不明だった。
カルシニューリン活性化薬のスクリーニング、腎性尿崩症の新規治療戦略に
研究グループは、集合管の培養細胞において、Frizzled受容体のリガンドであるWnt5aが、AQP2のタンパク発現量増加・リン酸化(S261の脱リン酸化とS269のリン酸化)・細胞表面への移動に関わることを明らかにした。Wnt5aは、カルシウム/カルモジュリン/カルシニューリン シグナルを活性化することによりAQP2を制御しており、カルモジュリンの阻害剤であるW7とカルシニューリンの阻害剤であるシクロスポリンAはWnt5aの効果を完全に阻害した。
また、Wnt5aが実際に水の再吸収へ関わることを示すため、マウスの腎臓から集合管を単離し灌流実験を実施。Wnt5aは水透過性を上昇させ、バゾプレシンの約54%もの効果を発揮した。腎性尿崩症モデルマウスにおいてもWnt5aは細胞表面のAQP2発現量を増やし、尿濃縮力を上昇させたとしている。
さらに、Wnt5aの解析から、カルシニューリンはAQP2の主要な制御因子と考えられた。カルシニューリンを直接活性化することで知られるアラキドン酸が集合管培養細胞においてバゾプレシン様効果を持ったことから、カルシニューリン活性化薬が腎性尿崩症治療の標的となり得ることを確認した。
今回の成果により、カルシウム/カルモジュリン/カルシニューリン シグナルが、バゾプレシンとは異なる機序でAQP2の水透過量を増加させることがわかった。カルシニューリンはAQP2の重要な制御因子であり、カルシニューリン活性化薬のスクリーニングが腎性尿崩症の新規治療戦略となることが期待されると、研究グループは述べている。
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