■レジデント制度3年目に
病院薬剤師のレジデント制度は各地で構築されているが、薬局薬剤師の同制度は他にあまり存在しない。地域医療における薬局の役割への期待が高まる中、専門性を備えた薬剤師の育成がこの領域でも必要として「家庭医療専門薬剤師レジデンシー」制度が2014年から始まった。
研修内容として4領域33項目の到達目標を設定。新卒者は1年間、3年以上の薬局勤務経験者は6カ月間、事前に薬局でプレ研修を行った後、3年間の研修を受ける。現在、プレ研修1人、1年目1人、2年目前半1人の計3人の薬剤師が在籍している。
研修医向けのプログラムを参考に診療所や病院で研修を受けることが大きな特徴だ。1年目は、地域で家庭医療を実践している奈義ファミリークリニックに週2回通う。研修医と同じように薬剤師も来院した患者の予診を行い、その後医師の診察を見学。自分が担当した予診と本診察の内容を比較し、振り返りながら学んでいく。
予診では当初、患者の話に耳を傾けることからスタートし、慣れてくると聴診を行う。研修を通じて段階的に医療面接技術、フィジカルアセスメント、臨床推論、処方提案の能力を身につける。最終的には予診で、疑わしい疾患を三つほど提示できたり、慢性疾患の薬物療法継続の可否を評価できたりするレベルに到達することを目標にしている。
2年目前半には日本原病院、2年目後半には湯郷ファミリークリニックで、それぞれ週2日の研修を受け、多職種連携や在宅医療について学ぶ。3年目は薬局で実践的な取り組みを行う。3年目までに、日本プライマリ・ケア連合学会のプライマリ・ケア認定薬剤師の資格取得を目指している。
マスカット薬局奈義店の小川壮寛氏は「この研修によって、患者のニーズや問題点を的確に把握できる医療面接技術、病態急変時に医療機関への的確な情報提供ができるフィジカルアセスメント能力、医学的問題点と医師の処方意図を理解した服薬指導、OTC薬販売時に受診勧奨トリアージができる臨床推論能力のほか、適した用法や用量の提案、ポリファーマシーへの対応、多職種連携が行えるようになる」と期待を語る。
実際に研修中の薬剤師は、医師の考え方や視点を理解することによって、医師の処方意図を想定し的を絞った疑義照会を行えるようになったり、従来の薬剤師にはない視点で患者に質問を投げかけたりするようになってきており、成果を実感しつつあるという。
奈義ファミリークリニック所長の松下明医師も「今後、病院完結型医療から地域完結型医療にシフトする。役割分担が進む中、地域で働く薬剤師にはそのエリアで働く薬剤師としてのプロ意識を持って取り組んでもらいたい」と強調。「いい意味で医師に議論をふっかけてくれるような薬剤師が地域にほしい。『この薬についてはこう思う』などと一緒になって考えてもらえるように、薬剤師を底上げする必要があると思って取り組んでいる」と話している。