相次ぐ治療薬の登場で、OS延長へ
ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社は、多発性骨髄腫治療薬「エムプリシティ(R)」(一般名:エロツズマブ)を11月18日から発売開始したことを受け、11月21日、メディアラウンドテーブルを開催。日本赤十字社医療センター骨髄腫アミロイドーシスセンターセンター長の鈴木憲史氏が講演した。
多発性骨髄腫は血液がんのひとつで、抗体を産生する形質細胞ががん化した難治性の造血器腫瘍。進行するまで症状が現れることが少なく、早期診断が難しい疾患として知られる。進行すると、血中カルシウムの増加(Calcemia)、腎障害(Renal Impairment)、貧血(Anemia)、骨病変(Bone Disease)といった、いわゆるCRABと呼ばれる骨の症状が出現する。2015年の多発性骨髄腫の罹患数は8,600例、そのうち死亡数は2,400例と推計されている。
多発性骨髄腫の治療は2000年代に登場したボルテゾミブ、サリドマイド、レナリドミドの3薬により大きく変わったという。これらの3薬を使用した群と使用していない群を比較した報告によると、使用した群では使用していない群に比べ全生存率(OS)が有意に長く(p<0.001)、同じ報告における65歳以上の患者の予後の比較では、2001~2005年のOSが3.2年であったのに対し、2006~2010年では5.0年と予後が改善していることが示されている1)。さらに2010年代になり、パノビスタット、ポマリドミド、カルフィルゾミブが登場。これらを組み合わせることで治療の選択肢が増え、さらなる予後改善が期待されているという。
多発性骨髄腫の臨床的治癒にも期待
今回発売された「エムプリシティ」は、ヒト化抗ヒトSignaling Lymphocyte Activation Molecule Family member 7(SLAMF7)モノクローナル抗体で、多発性骨髄腫治療薬では初の抗体医薬。SLAMF7は90%以上の患者に発現が認められるうえ、その発現は骨髄腫の細胞遺伝学的タイプに依存しないため、ほとんどの多発性骨髄腫患者に有効と考えられるという。SLAMF7は、NK細胞やいくつかのT細胞でも発現が認められていることから、同剤は骨髄腫細胞表面に結合して細胞死をもたらす直接的な作用と、NK細胞活性化を介した間接的な作用のふたつの作用機序を有する。治験では、日本人を含む対象患者において、レナリドミド+デキサメタゾンの標準療法群に対し、標準療法に同剤を加えた群で無増悪生存期間(PFS)を有意に改善(2年時、41% vs. 27%、p=0.0004)、OSでも有意な改善がみられたという。なお、同剤はマウス由来の抗体の遺伝子組み換えモノクローナル抗体であり、治験においてもinfusion reactionの発現が認められている。投与前にはinfusion reaction軽減のため前投薬が必要。
鈴木氏は、「エムプリシティは多発性骨髄腫治療におけるはじめての抗体医薬。免疫がからむことにより、一部で臨床的治癒も期待できる。多発性骨髄腫の治療はアメリカンフットボールのようなもので、治療薬が出そろって、いよいよメンバーがそろってきたと感じる。それぞれの治療薬のメリット・デメリットを考慮して治療戦略をたてることで、多発性骨髄腫という疾患を制圧できるのではないかという希望が見えてきている。今後の治療に期待したい。臨床的な治癒には、最初が肝心。現在の適応は、再発・難治性の多発性骨髄腫だが、将来的には初回治療で寛解導入後のいわゆる地固めにエムプリシティを使用する、といった使い方にも期待したい」と述べた。
1)Kumar SK, et al.:Leukemia. 2014;28(5):1122-1128.
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・ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社 プレスリリース