がん細胞に高発現するLSD1の阻害を引き金に薬物を放出
京都府立医科大学は11月25日、がん細胞の中でのみ抗がん剤を放出することで、抗がん剤に由来する副作用を軽減する分子技術を開発したと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科医薬品化学の鈴木孝禎教授、太田庸介大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は独科学誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に11月24日付で掲載されている。
画像はリリースより
近年、副作用の強い抗がん剤の効果をがん細胞に選択的に作用させるドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究開発が盛んに行われている。なかでも抗体-薬物複合体は、がんに発現している抗原に特異的に結合後、がん細胞内に取り込まれ、薬物を放出することによって、副作用の低減と高い治療効果を実現している。しかし、抗体-薬物複合体はタンパク質を含む大きな分子であるため、その体内動態がよくなく、生産コストが高いことや、薬物アレルギーなどの副作用といった課題が残されており、こうした問題を解決し得る小分子型のDDSは現在のところ開発されていない。
研究グループは、リシン特異的脱メチル化酵素1(LSD1)が乳がんや白血病細胞など多くのがん細胞で高発現し、がんの増殖に関与していることに着目。細胞膜透過性に優れた代表的なLSD1阻害薬「フェニルシクロプロピルアミン」(PCPA)の酵素阻害メカニズムに基づき、LSD1阻害を引き金に薬物を放出するドラッグデリバリー分子「PCPA-薬物複合体」を考案した。この複合体はLSD1阻害と放出される薬物の作用により相乗的な抗がん効果が期待される一方で、LSD1をほとんど発現していない正常細胞においては薬物の放出は起こらず、薬物由来の副作用の軽減が期待できるという。
他の多くの抗がん剤への応用が可能、副作用軽減に
さらに研究グループは、PCPAと乳がん治療薬「タモキシフェン」を結合し「PCPAタモキシフェン複合体」を作成。PCPA-タモキシフェン複合体は、PCPAに比べてLSD1の活性ポケットに納まりやすい構造をとることでLSD1を強く阻害するとともに、LSD1存在下でタモキシフェンを放出することが試験管内での実験により明らかとなった。さらに、この複合体はLSD1を高発現する乳がん細胞において、LSD1阻害とタモキシフェンの作用の相乗効果により相乗的な乳がん細胞増殖抑制効果を示した。なお、正常細胞に対しては毒性をほとんど示さなかったという。
今回の研究でLSD1を高発現するがん細胞で選択的に薬物を放出する分子技術が開発され、すでに、動物実験での有効性や安全性が確認されている。今後、臨床への応用を進めていくことにより、副作用の少ない抗がん剤の開発が期待される。また、この分子技術はPCPA-タモキシフェン複合体だけでなく、他の多くの抗がん剤に適応することが可能であり、新たな抗がん剤デリバリー分子の開発に活用されることが期待される、と同研究グループは述べている。
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・京都府立医科大学 プレスリリース