微弱なnGVSの長期刺激によるバランスの改善効果を検討
日本医療研究開発機構(AMED)は11月21日、経皮的ノイズ前庭電気刺激(nGVS)により高齢者の身体のバランス機能が改善し、刺激を停止した後も長期にわたり身体のバランスを安定化させるという新しい現象をとらえたと発表した。この研究は、東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科聴覚音声外科の藤本千里助教、岩﨑真一准教授、山岨達也教授ら研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に11月21日付けで掲載されている。
画像はリリースより
内耳にある前庭器官は、頭部の動きを検知し、身体のバランス維持に重要な役割を果たしており、その障害はめまいやふらつきといった症状を呈する。前庭障害は高齢者のバランス障害の主要因であり、転倒やそれに伴う骨折・寝たきり・認知症の大きな原因のひとつとなっている。前庭障害を主たる原因とする身体のバランス障害は、高齢者の20~50%に発症するが、現時点では有効な治療法はない。
研究グループはこれまでに、耳の後ろに装着した電極から微弱なノイズ電流を加える経皮的ノイズ前庭電気刺激(noisy galvanic vestibular stimulation, nGVS)という方法により、身体のバランス機能の改善を目指す研究に取り組んでいる。先行研究では、nGVSにより健常者および前庭障害患者で身体のバランス改善を認めたが、この研究では30秒間という短い時間のnGVS刺激中における改善が示されただけで、nGVSによる長期的な改善の有無については明らかになっていなかった。
世界初の科学的信頼性の高い治療法となる可能性も
今回の研究では、64~70歳の比較的高齢な健常者30名を対象とし、痛みや不快感が生じない程度の微弱なnGVSの長期刺激(30分間刺激と3時間刺激)によるバランスの改善効果について、前向き自主臨床試験による検討を行った。身体のバランス機能の評価は重心動揺検査を用い、目を閉した状態で評価。身体のバランスを評価する複数のパラメータを用いて評価を行った結果、30分刺激においても3時間刺激においても、刺激終了した後も数時間にわたり、バランスの改善効果が持続することが明らかとなったという。さらに、30分刺激を4時間の間隔をあけて反復することにより、刺激終了後の改善効果が強まる傾向が見られ、改善効果の持続時間においても1回目の刺激に比べ延長することを見出したとしている。
この研究成果は、nGVSがその刺激を停止した後も長時間にわたって身体のバランスを改善し続けるという常に電流の刺激をしなくても体のバランスの改善が持続することを示唆するもので、nGVSが高齢者のバランス改善に貢献し、転倒・骨折の減少に寄与する可能性が示された。
同研究グループは今後、nGVSの両側前庭障害の患者に対する長期的な身体のバランス改善効果を証明するための試験を行う予定。その試験でnGVSの効果が証明できれば、nGVSが両側前庭障害による身体のバランス障害に対する、世界初の科学的信頼性の高い治療法となるものと期待される、と同研究グループは述べている。
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・日本医療研究開発機構(AMED) プレスリリース