■かかりつけ機能の阻害も
日本病院薬剤師会の川上純一副会長は薬事日報の取材に答え、薬局の構造規制緩和を受け、大学病院などが誘致に動いている敷地内薬局について、「賛成しかねる」と異を唱えた。病院の敷地内に薬局を設置することは、病院の外来を受診した患者を地域に戻していくという方向性に逆行するだけでなく、「国を挙げて進めている外来や入院医療の機能分化の障壁となる」と指摘。また、病院から地域に戻った患者を連携してケアしなければならない、かかりつけ医、かかりつけ薬剤師の機能にも「良い影響を及ぼさない」と強調した。いずれも「日病薬としての見解」としたが、「個々の会員施設には問わない」との立場を示した。
敷地内薬局誘致の問題をめぐっては、日本薬剤師会が「医薬分業の趣旨に反する」、厚生労働省が策定した「患者のための薬局ビジョン」に「逆行している」などと反対しているが、川上氏は、国が進めようとしている医療提供体制の構築の観点から反対する考えを示した。
2016年度診療報酬改定の「基本的考え方」では、地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化・連携を進めることや、かかりつけ医・歯科医、かかりつけ薬剤師・薬局の機能充実を図り、病院から地域に戻った患者に「安心・安全な医療を提供する」ことなどが示されていると説明。
一定規模の病院には、こうした方向性に沿って、外来の患者を地域に戻す努力が求められているが、「病院の敷地内に薬局があり、そこがかかりつけ薬局のような状態になってしまうと、日常的な身体の不調でも外来を訪れるようになってしまう」と危惧。
「例えば脳の検査で病院を訪れた患者が、花粉症かもしれないと思い、ついでに耳鼻科にかかってアレルギーの薬をもらう」といった事例を挙げ、「患者側からすればワンストップで済むので楽だという論理になってしまう」とした。
14年度改定では、外来の機能分化の観点から主治医機能を評価するため、「地域包括診療料」などが創設されたことにも触れ、「これでは、かかりつけ医が発揮すべき機能が阻害されてしまう」と指摘。病院側が「患者の利便性をあまりうたいすぎる」ことによる弊害に懸念を示した。
さらに、「敷地内薬局であっても、患者を地域に戻す役割を果たせるのであればいいが、大病院の一般外来を受診し続けたり、敷地内で薬をもらい続けるような状況になったら問題」とし、外来医療の機能分化が進まなかった場合、地域で連携して患者を管理する役割を担う「かかりつけ医とかかりつけ薬剤師・薬局の機能を阻害することにもつながる」と問題視。
地域包括ケアシステム、医療機能の分化・強化をはじめ、機能分化した後のかかりつけ医、薬剤師の職能への影響を懸念すると共に、「医療計画や、診療報酬改定を含め、国を挙げて進んでいこうとしている方向と全く逆行する」との理由から「賛成しかねる」と明言した。
また、特定機能病院が敷地内薬局を誘致した場合の医療保険上の問題点も指摘。高度な医療を提供する役割を担う特定機能病院では、手厚い入院基本料など、診療報酬上の優遇措置を得ているが、「逆紹介率40%以上」とすることが承認条件の一つになっている点を指摘。
「これは患者を地域に戻す努力をしなさいというメッセージ」であるにもかかわらず、「地域へのスムーズな移行の障壁となる」ような敷地内薬局を設置することの矛盾をついた。
また、敷地内薬局が医療機関に対して賃貸料を支払うという構図は、「調剤報酬が賃借料に形を変えて保険外収入として医療機関に流入することにつながる」と説明した上で、国立大学や国立病院が誘致することの問題点として、「本来そこは国有地。自分たちに国有地の管理権があるからといって、保険外収入を得るためにそれを活用するというのは、国民に対して説明がつくのか」と疑問を投げかけた。