BNP濃度から心不全の進行度だけでなく予後も
国立循環器病研究センターは11月15日、慢性心不全患者の退院時に測定した血液中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)濃度から算出された数式が、退院後の予後を高確率で予測できることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同センター臨床研究部の福田弘毅医師、北風政史部長、大阪大学産業科学研究所知能推論研究分野の鷲尾隆教授らの研究チームによるもの。同研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」に同日付で掲載されている。
画像はリリースより
日本人の死因の第2位である心血管疾患は、終末期には慢性心不全に進行する。慢性心不全は予後不良な病態で、高齢化や食生活の欧米化、生活習慣病罹患率の増加などに伴い近年増加傾向にある。
BNPは心臓に過重な負荷がかかると心臓を保護するため多く分泌されるタンパク質で、血中BNP濃度によって心不全の進行度合いがわかるバイオマーカーとして臨床現場で広く用いられている。しかし、BNP値から再入院や死亡など具体的な心血管イベントの発生までの期間を予測する方法は今までなかった。
医療に数学的統計を応用する可能性を示唆
同研究チームは、2007~2008年の間に心不全症状増悪のため同センターに入院し退院後2014年までに再入院した慢性心不全患者113例の、退院時血中BNP値と再入院までの期間をもとに、BNP値から再入院の確率を予測する数学的モデルを構築。さらに2013~2015年の期間に登録した60例の慢性心不全患者の実際の再入院までの期間が、作成したモデルと一致するかの前向き研究も実施したという。
その結果、退院時血中BNP値からの予後計算結果と再入院・死亡の実測値は、特に再入院・死亡までの期間が短い場合はほぼ一致することが判明。また、BNP値が上昇するごとに再入院・死亡率が増加することも明らかになったという。
これらの研究成果から、予後の観点からみた重症度をBNPから予測可能になり、これまで医師の経験が重要とされてきた臨床現場に数理科学を導入できる可能性が示された。医療機関が蓄積した膨大なデータの数学的解析結果を応用することで、今後の医療の一層の発展につながると期待が寄せられている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース