日本人2型糖尿病患者2,539人を追跡調査
奈良県立医科大学は11月15日に米国・ニューオリンズで開催された米国心臓学会議で、日本人の糖尿病患者の心血管疾患一次予防としての低用量アスピリン療法の有効性を10年にわたり追跡調査した「JPAD2研究」の結果を発表した。この研究は、同大学の斎藤能彦教授、国立循環器病研究センターの小川久雄理事長、兵庫医科大学の森本剛教授らなどの研究グループによるもの。研究結果は、循環器学領域の米国科学誌「Circulation」に同日付で掲載された。
画像はリリースより
研究グループは2008年に「日本人2型糖尿病患者における低用量アスピリン療法の心血管疾患一次予防」に関する研究報告(JPAD研究)を行った。JPAD研究では、4.4年の観察期間において、低用量アスピリン療法による心血管疾患の予防効果が認められなかった。同様の報告が同時期に英国からも報告されたこともあり、糖尿病患者への心血管疾患一次予防法としての同療法には疑問が持たれるようになった。しかし、JPAD研究には観察期間中にあらかじめ想定された心血管疾患の発症が認められなかったことなど、解決すべき問題点もあった。
JPAD研究は、2002~2005年に心血管疾患の既往のない2型糖尿病患者2,539人を募集し、無作為に低用量アスピリン投与群、非投与群に割付を行った。同研究は2008年4月に終了したが、その後2015年7月まで追跡調査を行い、心血管疾患の発症・出血性疾患の発症について調査「JPAD2研究」を継続した。研究終了後の低用量アスピリン療法の継続要否については、対象患者の各主治医の判断に委ねられた。
民族や人種超えて普遍的な結果かどうかは国際研究結果を待つ必要あり
2015年7月の追跡調査時点で観察期間は10.3年(中央値)となり、観察期間中に低用量アスピリン投与群では270人が低用量アスピリン療法を中断し、非投与群では109人が低用量アスピリン療法を開始。低用量アスピリン療法の効果を検証するにあたり、これらの低用量アスピリン療法割付から逸脱した患者を除外した解析(Per-protocol解析)を行った。
心血管疾患の発症は、低用量アスピリン療法群151人(15.2%)、非投与群166人(14.2%)で認められた。心血管疾患の発症に及ぼす低用量アスピリン療法の効果を検証した解析では、同療法により予防効果は認められなかった。この結果は、年齢や背別、血糖コントロール状況、腎機能、喫煙の有無、高血圧症、脂質異常症の合併で補正解析を行った後も同様だったとしている。
今回の研究から、心血管疾患既往のない日本人2型糖尿病患者において、低用量アスピリン療法は心血管イベントに対する一次予防目的では勧められないことが示唆される。しかし、民族や人種を超えて普遍的な結果であるかどうかは、進行中の国際研究の結果を待つ必要があると、研究グループは述べている。
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・奈良県立医科大学 報道資料