大気汚染によるAhRの活性化とアトピー性皮膚炎の関係を検討
東北大学は11月15日、大気汚染物質がアトピー性皮膚炎の諸症状を引き起こす仕組みの一端を解明したことを発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科の日高高徳医員(医化学分野・皮膚科学分野)、小林枝里助教(医化学分野)、山本雅之教授(医化学分野・東北メディカル・メガバンク機構機構長)らの研究グループによるもの。研究成果は英科学雑誌「Nature Immunology」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
アトピー性皮膚炎の患者数は世界的に増加しており、その数や重症度は大気汚染と相関することがわかっているが、その理由はわかっていない。大気汚染物質には転写因子AhRを活性化する成分が含まれていることから、研究グループは大気汚染によるアトピー性皮膚炎の発症や悪化にAhRが関与していると予想。実際、大気汚染物質に暴露される表皮でAhRを恒常的に活性化させたマウス(AhR活性化マウス)が慢性皮膚炎を発症することもわかっている。
そこで研究グループは、AhR活性化マウスを利用してAhRの表皮での機能を詳しく解析することで、大気汚染によるAhRの活性化とアトピー性皮膚炎の関係を検討した。AhR活性化マウスの性質を詳しく調べたところ、AhR活性化マウスは、皮膚のアレルギー性炎症やバリア機能障害、喘息様の症状を発症しやすくなることなど、ヒトのアトピー性皮膚炎と大変よく似た症状を示すことがわかった。さらに、AhR活性化マウスではアトピー性皮膚炎患者と同様に表皮内に神経が侵入しており、そのため痒みを感じやすい状態になることが明らかになったとしている。
痒みをターゲットにした新規治療法開発の可能性
表皮の遺伝子発現を調べたところ、AhR活性化マウスの皮膚では神経伸長が見られるよりも前に神経栄養因子arteminの遺伝子(Artn)の発現が誘導されており、arteminを働かなくする抗体の投与によってAhR活性化マウスの表皮内神経伸長と痒み過敏性が改善したことから、AhRがarteminの発現誘導によって痒み過敏性を引き起こすことがわかった。痒みによる掻爬行動は皮膚バリア機能を破綻させ、皮膚からの抗原の侵入を引き起こし、抗原に対するアレルギーの成立や皮膚炎、喘息などのアレルギー症状を起こすと考えられる。
また、ディーゼル排気に含まれる物質などの大気汚染物質を慢性的に皮膚に塗布することでもAhRが活性化され、正常なAhR遺伝子を持ったマウスでarteminの発現や表皮内神経伸長、痒み過敏性などAhR活性化マウスに見られた症状を再現すること、さらに、アトピー性皮膚炎患者の皮膚ではAhRの活性化が強い人ほどarteminの発現量が高いことがわかり、AhRによるartemin活性化がヒトのアトピー性皮膚炎に関連することも明らかとなった。
今回の研究成果により、AhRによるartemin活性化がアトピー性皮膚炎の症状を引き起こすと判明したことから、AhRの活性やarteminの働きを抑える物質を探索することで、アトピー性皮膚炎の痒みをターゲットとした新しい発想の治療薬を開発できる可能性がある。そのような薬剤を既存の治療薬と組み合わせることで、アトピー性皮膚炎の症状を抑えることが容易になると期待されると、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東北大学 プレスリリース