国立成育医療研究センターの石川洋一薬剤部長は、散剤に関して「エビデンスはあまりない」としながらも、「日本独特の文化で、米国や欧州では液剤が基本」と解説。わが国では、分包機が開発される前から薬剤師が薬包紙を折って1包ずつ散剤を調剤してきた技術があったため、子供に1回分ずつ服用させることができたと強調した。
海外では、水剤や懸濁剤などの液剤が基本であるため、全量が入った瓶を渡して子供や親が自分で計量することになるが、石川氏は「10回分計量しても薬が余ったり、足りなくなったりして正確に量ることができない」と問題点を指摘した。
その上で、年齢によって用量が連続的に変化する、服用できる剤形が異なる、好まれない味があるといった小児用製剤の特性を挙げ、「用量調節が自由であることがポイント。用量調節ができるのは、散剤と液剤であり、用量を微調整して、子供にしっかり服用させるためには、薬剤師の技術を生かす必要がある」と述べた。
日本では、水と服用することで新生児から全ての年齢で服用できるため、散剤が発達してきたのに対し、海外では液剤が発達してきたが、液剤は腐敗しやすいために保存剤、抗酸化剤を添加しており、それが欧州で子供の安全性への不安につながり、問題視されるようになってきた。
こうした背景から、欧州ではミニタブレットなど固形製剤に関心が移行しつつある。石川氏は「コーティング技術など日本の製剤技術は固形製剤では世界トップクラスであり、世界に向け新たな小児用剤形を開発するチャンス」と指摘。「ミニタブレットやドライシロップなど、日本が小児用製剤の開発をリードしていくためには、散剤の文化を生かして、様々なアイデアを出していけるのではないか」と提言した。
その上で、「最適な製剤を子供たちに届けるために、日本独自の散剤の技術を高めて海外に提供していくか、海外と共通で使える製剤を開発するか、子供たちやお母さんたちと一緒に考えたい」との考えを示し、「薬剤師は正確性とエビデンスを提供する役割があることを忘れないようにすべき」と呼びかけた。
明治薬科大学治療評価学研究室の伊東明彦教授は、散剤調剤に関する課題を分析した結果を紹介。散剤を調剤する過程で、乳鉢や乳棒、分包機、分包紙に薬剤が付き、必要な重量が失われているとし、特に高齢者で服薬時の薬剤損失率が大きいとのデータを示した。
また、小児では7割以上が錠剤粉剤、脱カプセルとの研究報告を提示。錠剤を粉砕しても10%程度の薬剤損失率があるとし、「単に錠剤を粉砕しても損失が大きくなる。粉砕機で粉砕しても、経時的に粒子径が変わってくることに留意が必要」とした。
これらのことを踏まえ、伊東氏は、薬剤師が注意すべき対応として、散剤の付着性や飛散性などを理解し、錠剤の粉砕方法による影響、分包機の性能を配慮しつつ、「しっかりとした服用方法を検討して子供や親に指導することが大事」と述べた。