妊娠高血圧腎症とそれに伴う流産・早産・胎児発育障害がすべて改善か
東北大学は11月14日、水溶性ビタミン「ニコチンアミド」によって、妊娠高血圧腎症やそれに伴う流産・早産・胎児発育障害がすべて改善することを、マウスモデルを用いて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科・医学系研究科の髙橋信行准教授らの研究グループが、同大学メデイカル・メガバンク機構、米・ノースカロライナ大学、ハーバード大学およびベイラー医科大学との共同研究により行ったもの。研究成果は、米「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」電子版に11月7日付で掲載されている。
画像はリリースより
妊娠高血圧腎症は、妊娠によって血圧の上昇と蛋白尿が認められる疾患。急速に悪化し、放置すると脳出血等による母体死亡や児の死亡をもたらす危険がある。降圧薬は胎児の発育を障害するため、妊婦に禁忌とされているものが多い。また、妊婦に投与可能な降圧薬であれば、妊娠高血圧腎症による母体死の予防は可能だが、妊娠高血圧腎症の本態とも言うべき血管内皮障害による血管内腔の狭小化は回復されない。そのため、妊婦に投与可能な降圧薬による母体降圧は、胎児への血流を減少させ、胎児の発育や生命に悪影響を及ぼすことが少なくないという。
現在は、母児救命のために、帝王切開によって胎児を取り出したり、陣痛促進剤によって出産を誘発したりすることによって、妊娠を中止し、分娩を行わなければならない患者が多数存在しており、未熟児出産の原因となっている。そのため、母体高血圧のみならず、妊娠の維持・胎児発育を改善する薬が長年待ち望まれている。
催奇形性・発がん性がないニコチンアミド
研究グループは、水溶性ビタミンであるニコチンアミドが、強力な血管収縮物質であるエンドテリンによって誘導される血管収縮を抑制すること、妊娠高血圧腎症の原因となるストレスを低下させることに着目。ニコチンアミドは催奇形性や発がん性がないことが知られており、同研究グループはニコチンアミドが妊娠高血圧腎症に有効であると考えたという。
ヒトの妊娠高血圧腎症では、血管増殖因子阻害蛋白「sFlt-1」の胎盤での産生増加が原因の場合と、胎盤の形成不全が原因の場合がある。そこで、ヒト妊娠高血圧腎症と酷似した2つの異なるマウスモデルを用いてニコチンアミドの効果を検討。1つは、ウイルスを用いてsFlt-1を遺伝子導入し、過剰発現させるモデル。もう1つは、ASB4という蛋白の欠損により胎盤形成不全を起こすが、sFlt-1は上昇しないモデルだ。
その結果、どちらのモデルにおいても、ニコチンアミドが高血圧、蛋白尿、血管内皮障害、およびそれに伴う流産・早産・胎児発育障害を改善することが明らかとなった。さらに、降圧はADP リボシルシクラーゼの阻害によるもの、妊娠継続・胎児発育の促進は細胞内ATP産生の回復によるものであることが示唆されたという。
ニコチンアミドは、すでにペラグラなどビタミンB3欠乏性皮膚疾患・経口摂取が困難な妊婦などに投与されており、アルツハイマー病への応用の臨床治験も進んでいる。有効な薬物療法が確立していない妊娠高血圧腎症に対しても、早急な応用が期待される。
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