■将来に向けた課題を探る
日本医薬品卸売業連合会は10日、都内で創立75周年を記念した2016年度セミナーを開き、講演や座談会を行った。座談会では、これまでの市場変化、流通改善等の活動変遷などを振り返ると共に、GE薬80%時代、高額薬剤、残薬等の無駄への対応、地域包括ケアシステムなど、医薬品卸が取り組んでいく諸課題が提起された。特に、重要なテーマとして掲げられている単品単価については、柔軟な対応もあり得るのではないかとの指摘もあったが、厚生労働省の武田俊彦医薬・生活衛生局長は、「単品単価は大きな問題であり、やらなければならない。一企業の問題ではなく、公的な薬価制度へも影響する」と、あくまでも単品単価取引を進めていくことを強く求めた。
鈴木賢会長は、医薬品流通をめぐって、「流通近代化協議会、流通改善懇談会で議論が行われて提言やメッセージが出されてきた。今はGE薬80%、高額薬剤への対応などが課題となっている。医薬品卸は、これからも国民医療を支える社会インフラとしての機能を発揮できるよう、医薬品流通の適正化、効率化に向けた事業展開していく」とあいさつした。
厚労省医政局の大西友弘経済課長による基調講演「医薬品産業政策の動向と展望について」では、医薬品産業を取り巻く最近の動向を紹介しつつ、「薬価制度改革では、薬事と保険の政策連携強化、イノベーションの推進と安定供給確保、GE薬の使用促進、医薬品高額化への対応が検討されているが、GE薬の数量シェア目標80%は、メーカー、卸、小売、薬局を含む業界全体に大きな影響を与えている」との認識を示した。
医薬品卸に対しては、物流、金融、情報、販売の本来機能に加えて、災害対応を含む安定供給の推進など医薬品の特性を踏まえた機能強化と、卸の長所・強みを生かした機能の拡大と深化を期待するとしたほか、「医薬品卸は、地域包括ケアシステムにおいて患者まで見据えた事業展開や、健康関連産業としてのグローバルなバリューチェーン展開などが求められるのではないか」と訴えた。
また、「医薬品流通の過去・現在・未来~医薬品流通の変革に向けて」と題した講演を行った青山学院大学経営学部の三村優美子教授は、日本の医薬品流通における主な流れと課題を説明すると共に、日本の医薬品卸が持つ強さとして、商物と情報の三位一体となった卸機能に加えた多種多様な専門営業力、緊急対応の在庫と多頻度小口のきめ細かい配送力、地域医療を支える地域密着・地域浸透力を上げた。
一方、処方と調剤の分離による医療現場とのつながりの希薄化、大病院やチェーン調剤の価格交渉・取引問題の深刻化、長期収載品市場縮小のカテゴリーチェンジ、メーカー起点流通の不適応という環境変化への対応が弱点として指摘した。
その上で、医薬品卸がいかに価値を生み出して提供していくかが重要であり、起点をメーカー、顧客から地域の患者生活圏へ移し、薬剤の提供から医療現場と患者支援という価値が求められると述べ、マーケティング力の構築、独自専門能力を生かした顧客問題解決への提案、商品特性・顧客タイプに対応した卸機能の重点化、情報提供とコミュニケーション能力などをキーワードとして挙げた。
座談会には、厚労省の武田医薬・生活衛生局長、エーザイの内藤晴夫CEO、別所芳樹前卸連会長、松谷高顕元卸連会長、木村文治クレコンリサーチ&コンサルティング会長(司会)の5氏が登壇した。
はじめに木村氏が、「日本の医薬品卸の歴史は、革新と痛みを伴ったものであった。これからの課題は、GE薬、スペシャリティ薬、地域包括ケアシステムのすべてで、いかにプラットフォームをつくるかだ」と口火を切った。
武田氏は、医薬品流通に大きな問題もなく75年間を経たことは素晴らしいと讃えた上で、GE薬80%時代でも収益が上げられるようなマージン適正化、今後想定される垂直統合、高額薬剤を含めた医療費全体の適正化、医薬品流通ガイドラインなどを課題として上げた。
内藤氏は、日本の医薬品流通が卸によって支えられていることや地域包括ケアシステムで卸の役割に期待することを述べると同時に、医薬品メーカーの使命として根治薬、進行抑止薬の開発と患者まで届けるドラッグアクセスも課せられていると強調した。また、高額薬剤に対する私見として、「これまでは開発に要したコストを転換していたが、今後は患者に対する価値の表現としての価格へ考えが変わってきているのではないか」と述べた。
別所、松谷両氏は、薬卸連会長時代の主な出来事を振り返りつつ、単品単価に関して、GE薬では総価率を単品ごとにあてるなどの柔軟な対応もあるのでは(別所氏)、基礎的医薬品が総価の犠牲にならないようにすべき(松谷氏)などの持論を展開した。