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病原菌が効率的に鉄を細胞内へと輸送する仕組み明らかに-理研

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2016年11月14日 AM11:45

病原菌が鉄を自身の細胞内に取り込む際に機能するタンパク質の立体構造を解明

理化学研究所は11月10日、病原菌が増殖に必要な鉄を自身の細胞内に取り込む際に機能するタンパク質の立体構造を原子レベルで解明したと発表した。これにより、病原菌が効率的に鉄を細胞内へと輸送する仕組みが明らかになったとしている。この研究は、理研放射光科学総合研究センター城生体金属科学研究室の直江洋一特別研究員(研究当時)、中村希研修生(研究当時)、城宜嗣主任研究員(兵庫県立大学大学院生命理学研究科教授)らの研究チームによるもの。研究成果は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。


画像はリリースより

ヒトが食べ物から吸収した鉄分は、体中の細胞へ運ばれてさまざまなタンパク質と結合した状態になる。例えば、ヘモグロビンとして血液中で酸素の運搬をしたり、細胞が呼吸をするのに使われたりする。一方、病原菌は、ヘモグロビンから鉄を含んだ化合物「ヘム」を奪い、病原菌の細胞膜を貫通しているタンパク質「ヘムトランスポーター(ヘム輸送体)」を利用して細胞内へ取り込む。

これまで、ヘムトランスポーターがヘムを細胞内へ運ぶ際には、アデノシン三リン酸(ATP)という生体エネルギーを利用して、分子構造を大きく変化させることがわかっていた。しかし、実際にヘムトランスポーターにどのような構造変化が起こり、どのようにヘムが運ばれるのか、その詳細な仕組みはわかっていなかった。

感染症に対する新しい治療手段の開発に期待

研究チームは、大型放射光施設「」を利用したX線結晶解析法によって、ヘムトランスポーターの立体構造を原子レベルで解析。その結果、ヘムトランスポーターの中央には、ヘムを運ぶために作られた細長い空洞(チャネル)があり、その出口が細胞内側へ大きく開いた状態の構造(内開き構造)をしていることが分かった。ヘムが輸送される前にはチャネルの出口は閉じているため、この内開き構造は、ヘムを輸送した直後の状態であることを示している。さらに、チャネル表面の電荷が負電荷を持つアスパラギン酸残基の動きによってうまく制御され、この電荷の“反発力”を利用して、ヘムはチャネル内部から細胞内に排出されるという効率的な仕組みを突き止めたとしている。

今回の研究で、病原菌の細胞膜の中で働いているタンパク質であるトランスポーターがその機能を発揮する際には、大規模な構造変化を伴うことが明らかになった。しかし、それは連続的な変化の中の一部分を解明したに過ぎない。今後は、ヘムトランスポーター中の各原子が動いていく様子を、実験で連続的に捉えるような解析へ展開していく必要がある。また、得られた構造データはスーパーコンピュータを利用した分子動力学計算をより有効に活用できることから、理論的な検証に基づいた構造変化の解析も進めていくとしている。

さらに、病原菌の鉄獲得メカニズムの解明は、感染症に対する新しい治療手段の開発に貢献する可能性があることから、ヒトと病原菌間の鉄争奪戦の仕組みを原子レベルで詳細に解明できれば、それらの構造情報が新薬の開発につながると、研究グループは述べている。

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