病態リセットを標的とした新規治療法開発へ
東京医科歯科大学は11月10日、潰瘍性大腸炎の体外モデル作成に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科消化器病態学分野の渡邉守教授と同医学部附属病院消化器内科の土屋輝一郎准教授・日比谷秀爾医師の研究グループが、金沢大学がん進展制御研究所と共同で行ったもの。同研究成果は、国際科学誌「Journal of Crohn’s and Colitis」オンライン版に発表されている。
画像はリリースより
炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎は国内で患者が増加している難治性疾患(指定難病)。数十年にわたる罹患期間により病状悪化や大腸がんを発症するため、病状を一時的に改善させる治療薬だけでなく、病態を完全にリセットする治療法の開発が望まれている。
研究グループはこれまでに、腸上皮細胞の形質転換が大腸の機能低下や発がんの原因になることを明らかにしてきた。しかし、長期間炎症に暴露される大腸上皮細胞への影響はこれまで不明であり、慢性腸炎を模倣したモデルはなかった。
体外モデル構築による治療効果予測や再発予測・発がんリスクの予測に期待
今回、同研究グループは、独自に開発したマウス大腸上皮細胞初代培養を発展させ、1年以上にわたる炎症刺激を大腸上皮細胞に行うことに成功。長期炎症により大腸上皮細胞で誘導される遺伝子を初めて明らかにし、潰瘍性大腸炎患者で増加する遺伝子と一致することを確認した。また、長期炎症後に炎症刺激を除去しても大腸上皮細胞の炎症応答がリセットせず、強い酸化ストレス状態であることを発見。この長期炎症モデルは潰瘍性大腸炎患者の臨床経過を再現したモデルであり、病状再発・発がんの原因となる大腸上皮細胞の形質転換過程を初めて明らかにしたという。
このモデルを用いることは、潰瘍性大腸炎の病態をリセットする創薬のスクリーニングに有用であり、革新的な治療法の開発が期待される。さらに現在、ヒト大腸上皮細胞でも潰瘍性大腸炎モデルの作成に取り組んでおり、将来的には各患者の体外モデル構築による治療効果予測や再発予測・発がんリスク予測を可能にすることが期待できる、と同研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース