心臓移植までの待機期間は長期化傾向
ニプロ株式会社は11月10日、都内でメディアセミナーを開催。富山大学医学部第二内科教授の絹川弘一郎氏が「心臓移植と人工心臓の今」と題した講演を行った。
富山大学医学部 第二内科 教授 絹川弘一郎氏
高齢化に伴い患者数が増加している心不全。補助人工心臓(VAD)や心臓移植の対象となるのは、ACCF/AHAガイドラインの重症度分類でStage Dに該当する難治性心不全患者だ。該当する日本の患者数は数万人程度と推定され、通常の薬物治療や植込み型除細動器(ICD)、心臓弁手術などでは治療が難しい。静注強心薬の投与では一定の効果がみられるものの、長期投与は予後を悪化させることが示されており、10年単位で生存を期待できる最も根本的な治療は、心臓移植のみであるという。しかし、日本における心臓提供者は人口100万人あたり0.37人と、米国をはじめとする諸外国に比べ非常に少なく、心臓移植を希望する難治性心不全患者が移植手術を受けるまでの待機期間は5.4年と長く、さらに年々長期化する傾向にあるという。
心臓移植の適応となる患者は65歳未満。かつては心臓移植手術までの待機期間中に入院が必要であったことから仕事上のブランクが生じ、成人患者における移植後の社会復帰は非常に難しくなることが問題であった。2011年から相次いで植込み型左心補助人工心臓(LVAD)が承認され、待機期間中も入院せずに在宅での治療が可能になった。2013年には「重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン」も刊行、現在では年間140~150例に植込みが行われ、移植後には社会復帰が期待されている。
患者家族のサポートと実施施設の偏在が課題
在宅での治療が可能である植込み型LVAD治療にも問題はある。人工心臓という特性上、機械トラブルは心停止を意味し患者本人による対応は難しいため、患者家族の協力が必要となる。そのため介護を行う患者家族の負担は、患者本人を上回るという調査結果もあり、植込み型LVAD治療の支援体制として、機器の管理を行う臨床工学技士、患者や家族の精神的サポートにあたる臨床心理士、復職支援にあたるソーシャルワーカーを含めて、医療者側でもチームを組んで患者や家族をサポートする体制の整備が求められる。こうした医療者側の負担が障壁となるためか、植込み型LVADの植込み実施施設は全国で41施設あるが、その多くが大都市圏に偏在している。このため、本来、心臓移植の適応となる患者が移植を選択肢にあげることなく埋もれてしまっている可能性があるだけでなく、植込み型LVAD治療中の患者が感染やデバイス故障、脳梗塞等で再入院が必要になった場合にも、対応できる施設が少ない(患者の生活圏内にない)ということも問題となっている。
同セミナーでは、植込み型LVAD治療中の患者の声もビデオで紹介。家族や周囲の介護を受けながら、行動範囲が広がった喜びと、社会復帰への意欲を語る姿が上映された。心臓移植を受けるには、手術までの待機期間だけでなく、待機患者リストへの登録にも時間がかかる。多くの検査を実施したうえで、厳重な検討が行われるからだ。そのため、必要な検査を終える前に体調が悪化する例もあるという。早い段階で検討を始めることが肝心であるとして、絹川氏は「特に誘因なく、過去1年間に2回以上、心不全で入院しているような患者は、それまでの治療では対処が難しくなっている段階。若年であれば心臓移植を考慮することで、生命予後改善が期待できる。将来的には、移植適応外症例への植込み型LVAD治療の適応にも期待したい」と述べた。
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