転写因子SALL4が、どのように転移を促進させるのか調査
京都大学は11月8日、乳がん細胞の転移を促進する新たなメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科の伊東潤二特定助教、戸井雅和教授らの研究グループが、同大学再生医科学研究所の飯田敦夫助教、瀬原淳子教授と共同で行ったもの。同研究成果は「Biochimica et Biophysica Acta-Molecular Cell Research」に10月20日付で掲載されている。
画像はリリースより
がんは転移により、体内のさまざまな組織・臓器に拡がり機能を阻害、健康を著しく害することから、転移のメカニズムを解明し抑制する研究が求められている。転移にはがん参謀の移動能力を高める必要があるが、どのような分子が、どのようにして転移性のがんに高い移動能力を与えているのか、不明な点が多く残っている。
転写因子SALL4は、主に細胞増殖の活性化を通してがんを悪性化させることが知られており、これまでの報告ではSALL4が乳がんなどの固形がんの転移を促進させることが示唆されていた。しかし、SALL4がどのように転移を促進させるのか、そのメカニズムは不明なままだった。
SALL4-integrin α6β1系による移動能力の亢進
そこで同研究グループは、転移におけるSALL4の働きを調べるために、転移性乳がんの細胞株でSALL4の発現抑制実験を行った。その結果、SALL4が転移性乳がんの移動能力を高めていることが判明。そして、SALL4に制御され細胞移動に関わる遺伝子の探索を行ったところ、integrin α6遺伝子とintegrin β1遺伝子をつきとめたという。
次に、転移性乳がんの細胞株にintegrin α6β1の過剰発現を導入したところ、低下していた移動能が回復したことから、SALL4-integrin α6β1系が、乳がん細胞の移動能力の亢進に働いていることがわかった。さらに、SALL4-integrin α6β1系が生体内での転移を促進することを、小型魚類ゼブラフィッシュの稚魚への乳がん細胞移植実験で明らかにしたという。
SALL4の高発現とがんの高転移率との関係は大腸がんでも報告があるため、今回発見したメカニズムが様々ながん種で転移の促進に関わっている可能性がある。また、SALL4 やintegrin α6、integrin β1を転移性の乳がんのマーカーや転移抑制の標的として利用することで、実際の治療法確立への貢献も期待されると、研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果