糖尿病や心血管疾患の発症のリスクを高める内臓脂肪型肥満
慶應義塾大学は11月8日、内臓脂肪型肥満による生活習慣病と免疫機能低下の発症基盤に、免疫細胞の老化が関与していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学医学部内科学教室(循環器)の佐野元昭准教授、白川公亮助教らの研究グループによるもの。研究成果は、米医学研究専門誌「The Journal of Clinical Investigation」に同日付けで掲載されている。
内臓脂肪型肥満では、お腹がぽっこりと出てくるなど見た目の老化が進むだけでなく、糖 尿病や脂質異常、高血圧が進行して、心筋梗塞、脳卒中、心不全、死亡の危険性が数倍高まり平均余命も短くなることから、内臓の老化が加速していると考えられている。内臓脂肪の蓄積が心臓や血管、腎臓、肝臓、骨格筋などの全身の臓器にまで影響を及ぼすのは、内臓脂肪組織の中での活発な免疫応答が過剰な炎症反応を引き起こし、その影響が全身に波及するためであることが、近年の研究で分かってきている。しかし、どの細胞が、どのような炎症性サイトカインを出し、内臓脂肪および全身で過剰な炎症反応を引き起こしているのか、そのメカニズムはこれまで不明だった。
Tリンパ球「CD153陽性PD-1陽性Tリンパ球」が著しく増加
今回、研究グループは内臓脂肪型肥満と免疫老化の関連について検討。まず、高脂肪食を食べさせて太らせた若齢マウスの内臓脂肪のTリンパ球の解析から、痩せたマウスの内臓脂肪の細胞表面にはほとんど存在しないCD153とPD-1を発現するTリンパ球「CD153陽性PD-1陽性Tリンパ球」が現れて、わずか3~4か月足らずで著しく増加することを発見した。
このCD153陽性PD-1陽性Tリンパ球は、正常なTリンパ球の持つ獲得免疫応答能を失った代わりに、細胞老化の特徴を兼ね備えた「オステオポンチン」という強力な炎症性サイトカインを大量に産生する特有な性質を持っており、もとの正常なTリンパ球とは、機能的にも大きく変化していたという。また、肥満した内臓脂肪組織内で新たに同定された老化したTリンパ球集団は、健康な若齢マウスには存在せず、加齢に伴いリンパ組織中に出現。高齢マウスの免疫老化の原因となるTリンパ球と非常に良く似た性質を持っていたとしている。
PD-1は、正常なTリンパ球では、Tリンパ球の活性化に従って一過性に発現して、免疫のブレーキとして働く受容体。CD153陽性PD-1陽性Tリンパ球では、恒常的に高いレベルのPD-1の発現が認められるが、オステオポンチンの分泌は、PD-1刺激によるブレーキが全くかからないことも判明。また、CD153陽性PD-1陽性Tリンパ球が増加するメカニズムに、Bリンパ球が関与することも分かったという。
今回の研究成果では、CD153陽性PD-1陽性Tリンパ球を標的とした免疫機能の回復により、内臓脂肪型肥満に関係する生活習慣病の発症予防をめざす治療法の開発の可能性が示唆された。CD153陽性PD-1陽性Tリンパ球を選択的に取り除く、もしくは同Tリンパ球からのオステオポンチンの産生を抑制する、あるいは同Tリンパ球を増加させないなど治療法が考えられる。さらに同研究グループは、食生活の改善によって内臓脂肪を減らせた場合に、ひとたび出現した老化したT細胞集団がどのような挙動を示すのかにも興味を持っており、今後、研究を進めていくとしている。
▼関連リンク
・慶應義塾大学 プレスリリース