歯原性上皮細胞上のエピプロフィンの役割について研究
東北大学は11月7日、歯の発生やかたちの制御に関わる分子の役割を解明する過程で、エナメル質を形成するマスター遺伝子の同定と機能解析に成功し、どのように歯のエナメルが作られ、歯の形を制御しているのかを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学歯学研究科歯科薬理学分野の中村卓史准教授、小児発達歯科学分野の福本敏教授らと、米国国立衛生研究所との共同研究によるもの。同研究成果は、米科学誌「Journal of Bone and Mineral Research」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトの歯の最外層はエナメル質という構造で守られており、体の中で最も硬い組織だ。エナメル質をつくる歯原性上皮細胞はエナメル芽細胞とよばれ、歯の完成後に消失、体内には存在しない細胞となる。このため、歯のエナメル質は一旦破壊されると再生は不可能であり、金属やレジンなどの人工物による修復に限られる。そこで、物理的にも化学的にも十分な強度があるエナメル質を作成できるエナメル芽細胞の培養や、その分化制御法の開発が望まれていた。
また、歯を形成する小さな原基である歯胚は、歯原性上皮細胞と、神経堤由来の間葉細胞である歯原性間葉細胞との相互作用(上皮-間葉相互作用)により、エナメル質や象牙質をつくる細胞の分化をコントロールし、同時に歯の形作りを制御していることが知られている。そこで、同研究グループは、歯の発生メカニズムを解明する過程で、この歯原性上皮細胞に発現しているエピプロフィンに着目。エナメル質形成や歯の形態形成における役割の解明を目的として研究を開始したという。
将来的には、エナメル質の再生や歯冠や歯根の形も制御可能に
今回の研究では、転写因子のひとつであるエピプロフィンをマウス全身の上皮細胞に発現するよう遺伝子操作したマウス(K5-Epfn マウス)を作製し解析。このマウスの歯を解析したところ、野生型マウスではエナメル質を形成しない場所にエナメル質を形成していることが明らかとなった。また、K5-Epfnマウスの臼歯は、歯のかみ合わせの咬頭や歯根などの歯の形にも異常が認められたという。この原因は、エピプロフィンが歯の発生過程において上皮間葉組織間で展開される相互作用に、増殖因子FGF9やSHHの発現を誘導することにより介入することで、歯の象牙質形成に関与する歯原性間葉細胞の増殖を促進させるためであることが明らかとなった。
同研究グループは、今回の研究をさらに発展させ、皮膚から得られた上皮細胞を歯原性上皮細胞に人工的に誘導し、その細胞にエピプロフィンを発現させることで、齲蝕などで失ったエナメル質の再生や歯冠や歯根の形までも制御可能な技術開発に応用する研究を行っていきたいと述べている。
▼関連リンク
・東北大学 プレスリリース