mGluR1の機能減弱により、運動失調が生じることを明らかに
群馬大学は11月7日、脊髄小脳失調症1型(SCA1)のモデルマウスにおいて、小脳の代謝型グルタミン酸受容体タイプ1(mGluR1)の働きが減弱することによって運動失調が生じることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科脳神経再生医学分野の平井宏和教授、細井延武講師、アントン・シュワエフ研究員(現ロシア・クラスノヤルスク医科大学分子医学病態生化学研究所)の研究グループと、東京大学大学院総合文化研究科生命環境科学系の柳原大准教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「The Journal of Physiology」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
SCA1は遺伝性の脊髄小脳変性症のひとつで、北海道・東北地方に比較的多く、年齢とともに症状が悪化する進行性の神経変性疾患。希少疾患であり難病指定されている。SCA1の原因となる遺伝子異常は明らかにされているものの、その遺伝子異常が小脳の神経回路内で具体的にどのような機能異常を引きおこして運動失調につながるのかについては、これまで明らかになっていなかった。
mGluR1の機能改善で運動機能も改善、治療法開発に期待
研究グループは、遺伝子操作によってSCA1の病態をマウスで再現したSCA1モデルマウスを用い、小脳内でのシナプス伝達に関して、どのような異常があるのかを検討。小脳のプルキンエ細胞に存在するmGluR1を介したシグナリングが進行性に異常を生じることを突き止めたという。
さらに研究グループは、運動失調が生じる原因がmGluR1の機能減弱にあるのであれば、mGluR1の機能を増強できれば運動失調が改善すると考え、小脳プルキンエ細胞でGABAB受容体を活性化させてmGluR1 を介するシグナルを増強する効果があるバクロフェンという薬剤に着目。SCA1モデルマウスの小脳にバクロフェンを投与し、運動機能を評価したところ、バクロフェンを投与してないコントロール群(リン酸緩衝生理食塩水投与群)に比べて、バクロフェンを投与した群では1週間程度運動機能が改善。バクロフェン投与マウスの小脳を調べたところ、mGluR1の機能が改善していることがわかったという。
今回の研究成果は、SCA1をはじめとする遺伝性の脊髄小脳変性症が運動失調を生じる病態メカニズムの解明に役立つとともに、治療薬が非常に限られた脊髄小脳変性症に対して、mGluR1をターゲットとした新しい治療法の開発につながることが期待されると、研究グループは述べている。
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