がんゲノム変異データを用いて解析を実施
国立がん研究センターは11月4日、がんゲノムビッグデータから喫煙による遺伝子異常を同定したと発表した。この研究は、同センター研究所がんゲノミクス研究分野の柴田龍弘分野長、十時泰ユニット長、理化学研究所統合生命医科学研究センターゲノムシーケンス解析研究チームの中川英刀チームリーダー、藤本明洋客員研究員、米国ロスアラモス国立研究所Ludmil B. Alexandrov博士、英国サンガー研究所Michael Stratton所長らの日英米韓国際共同研究グループによるもの。同研究成果は、科学誌「Science」に11月4日付で掲載されている。
画像はリリースより
喫煙とがんの関連については、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)が、肺がんをはじめとするさまざまながんの原因となると結論づけている。また多くのがん種で、喫煙年数が長く、1日の喫煙本数が多く、喫煙開始年齢が若くなるほど、がんのリスクが高まることが示されている。
たばこに含まれる発がん物質は約60種類あり、その多くは体内の酵素で活性化された後、DNAと結合し、遺伝子変異を引き起こす。こうした遺伝子変異が、がん遺伝子、がん抑制遺伝子などに蓄積することで細胞ががん化すると考えられているが、突然変異の誘発機構やがん種による違いなど明らかになっていないことも多い。これらの解明にいより、喫煙関連がんの予防や治療に貢献するものと期待されている。
1年間毎日1箱の喫煙によって肺では150個の突然変異が蓄積
そこで研究グループは、さまざまな臓器がんにおけるDNA(遺伝子)異常に喫煙がどの程度影響を及ぼしているのかを、喫煙との関連が報告されている17種類のがんにおける合計5,243例のがんゲノムデータから検討。
その結果、生涯喫煙量とその患者のがん細胞に見られる突然変異数には、統計的に有意な正の相関が見られ、喫煙が複数の分子機構を介してDNA変異を誘発していることを明らかにした。また、1年間毎日1箱のたばこを吸うことで、肺がんでは最多の150個、喉頭では97個、咽頭では39個、口腔では23個、膀胱では18個、肝臓では6個の突然変異が蓄積していると推計されたという。
さらに、変異パターンの解析から、喫煙によって発がんリスクが上昇するがんには少なくとも3つのタイプが存在することが判明。タイプ1はたばこ由来発がん物質暴露が直接的に突然変異を誘発しているがん(例:肺がん、喉頭がん、肝臓がん)、タイプ2はたばこ由来発がん物質暴露が間接的に突然変異を誘発しているがん(例:膀胱がん、腎臓がん)、タイプ3は今回の解析で明らかな変異パターンの増加が認められなかったがん(例:子宮頸がん、膵がん)だとしている。
これらの研究成果から、がん発症において喫煙が全ゲノム解読レベルで突然変異を誘発していることが再確認され、がん予防における禁煙の重要性が強調された。さらに、今回たばこ由来発がん物質暴露が間接的に突然変異を誘発するタイプのがんが認められたことで、今後喫煙による間接的な突然変異誘発機構の活性化に関する詳細な分子機構が解明されることで、喫煙関連がんの予防や治療が進むことが期待されると、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース