一卵性双生児患者の不死化リンパ球からiPS細胞由来分化神経細胞を作製
大阪大学は11月4日、治療抵抗性統合失調症のクロザピン反応性が異なる一卵性双生児患者の不死化リンパ球からiPS細胞由来分化神経細胞を作製し、クロザピン反応性の分子基盤として、細胞接着系分子群の患者間における発現量の相違を発見したと発表した。この研究は、同大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授、同大学院歯学研究科の中澤敬信准教授、慶應義塾大学医学部の岡野栄之教授らの研究グループによるもの。
画像はリリースより
統合失調症は幻覚や妄想、意欲低下、認知機能障害等が認められる精神障害で、現存する治療薬を用いても十分に治療されない患者も多いといわれている。さらに、主要な治療薬の副作用や、複数の抗精神病薬を、十分量、十分期間投与しても改善が認められない治療抵抗性統合失調症患者の存在も大きな問題となっている。治療抵抗性統合失調症に唯一有効な抗精神病薬であるクロザピン治療は、治療抵抗性統合失調症患者の約6割程度に有効であることが知られているが、クロザピンには無顆粒球症という致死的な副作用が、0.5~1.0%程度に認められており、クロザピンが十分に普及しない原因のひとつとなっている。
細胞接着系遺伝子群発現量の相違がクロザピン反応性予測のマーカーに
同研究グループは、治療抵抗性統合失調症のクロザピン反応性が異なる一卵性双生児患者の不死化リンパ芽球からiPS細胞を作製し、神経細胞へと分化。得られたiPS細胞由来分化神経細胞から全RNAを調製し、遺伝子発現解析を実施した。その結果、クロザピンの効果がみられた患者では、効果がみられなかった患者と比較して、167遺伝子で高い発現がみられ、95遺伝子で低い発現がみられた。それらのトータル262遺伝子に関して、パスウェイ解析を実施したところ、細胞接着関連の機能が推定されるグループに有意に濃縮されていることが明らかとなった。iPS細胞および分化神経細胞の作製に使用した患者の不死化リンパ芽球についても同じ解析を行ったが、その発現に同様な差異はなかったという。
今回の研究成果により、細胞接着系遺伝子群の発現量の相違が、クロザピン反応性に関与していることが示唆された。細胞接着系遺伝子群の発現量の相違が、患者のクロザピン治療反応性の分子メカニズムとなる可能性のみならず、クロザピンに対する反応性を予測するマーカーとなる可能性が考えられる。この成果によって治療反応性の予測が可能となり、客観的診断法としても役立てること、また治療抵抗性統合失調症の再分類が可能となると、同研究グループは述べている。
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