同事業は、松本市が主体となって松本市医師会、松本薬剤師会に協力を呼びかけて実施。医薬コンサルティングを手がけるマディアが運営や研修に関わって進められた。事業には、北里大学薬学部、米国アイオワ薬剤師会の協力を得てマディアが作成した6カ月間のコーチング支援プログラムを活用している。これは、薬局薬剤師のコーチングによる糖尿病の進展抑制や医療費低減効果が確認された、米国のアッシュビルプロジェクトを参考に構築されたものだ。
昨年度の事業には松本市内の3診療所、5薬局が参加。糖尿病性腎症患者のうち、透析導入の前段階にある16人の患者を対象に、糖尿病性腎症の重症化や透析導入を防止するため、医師と薬剤師が連携して関わった。
具体的には、まず患者を診断した主治医が、それぞれの患者に応じた治療プランを立てた上で、生活上の指示を文書で渡す。その後、薬剤師は薬局で患者と面談。医師の指示を踏まえて、生活習慣の改善に向けた自己管理目標の設定を支援する。自己管理目標は「味噌汁を1日1回にする」「食後にお菓子を食べない」「毎日20分足踏み運動をする」「薬を忘れずに服用する」などで、到達可能な目標をできる限り具体的な数値で設定した。
薬剤師は1回平均30~40分間の面談を6カ月間に4回以上行ったほか、2回以上の電話相談を実施。研修会で身に付けたコーチングの手法を活用し、患者が自己管理目標を達成できるよう支援し、これらの情報は医師と共有した。
その結果、16人中15人の患者に6カ月間継続して支援を実施でき、1人当たり2~3項目設定された自己管理目標のうち、75%を達成した。また、支援前は91%だった糖尿病内服薬の服薬遵守率は、6カ月後には99%に高まった。6カ月間の観察期間ではBMIやHbA1cには有意な変化は認められなかったものの、腎症のステージが悪化した症例はなかった。
また、「薬剤師との信頼関係が深まった」「自分の体調の変化に関心を持つようになった」「病気や治療に対する不安は参加前と比べて減った」などと実感する患者が多く見られ、患者の満足度が高いと共に、食事に対する自己効力感の向上も認められた。服薬遵守率と自己効力感は糖尿病の予後に影響すると言われており、薬剤師によるコーチングが予後の向上に貢献することが示された。
かかりつけ薬剤師の業務が注目を集める中、今回参加した薬局薬剤師は取り組みを通じて、かかりつけ薬剤師として患者を支援するスキルを獲得できたとしており、同事業で得た経験を他の糖尿病患者や生活習慣病患者への関わりに役立てることができるという。
同事業は、規模を拡大して今年度も実施しており、6カ月間の評価が終わった後も関わりを継続し、予後を5年間追跡して引き続き効果を検証する。同様の事業は松本市だけでなく対馬市、福島市でも実施されている。さらに高知県内の4自治体で実施に向けた作業が進んでいるほか、導入を検討している自治体もあり、今後全国各地に広がる見通しだ。