7割に効果がない理由がわからず
京都大学は10月26日、がん免疫療法の新薬「オプジーボ(R)」(一般名:ニボルマブ)の新規作用として、末梢血中に数パーセントしか存在しない「9型ヘルパーT細胞(Th9細胞)」に作用して、悪性黒色腫(メラノーマ)の患者に効果を発揮することを発見したと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科の大塚篤司助教、野々村優美博士課程学生、椛島健治教授らの研究グループによるもの。研究成果は国際科学誌「Oncoimmunology」に掲載された。
画像はリリースより
ヒトの体の中には、自分にとって「異物」である菌やウイルスを自力で排除するシステム=免疫機構が存在し、健康な状態ではがん細胞も「異物」として取り除かれている。これを「がん免疫」と呼び、進行したがん患者ではこの免疫細胞が働けなくなるスイッチが入ってしまい、がん免疫が弱っていることがわかっている。このスイッチ(PD-1という分子)を解除して患者のがん免疫を回復させることでがん細胞を破壊する新薬が抗PD-1抗体オプジーボだが、この新薬が効くのは患者全体の3割程度で、残りの7割になぜ効果がないのかはまだわかっていない。
Th9細胞、治療効果があった患者でオプジーボ投与後に増加
研究グループは、患者それぞれがもつ免疫の状態の違いが新薬の効果の違いと関連があるのではないかと仮説をたて、それぞれの種類の細胞、分子1つひとつについて、治療効果があった患者群となかった患者群で差がないかを検証。その結果、リンパ球の一種であるTh9細胞が、治療効果があった患者でオプジーボ投与後、増加していることを発見した。
さらに、Th9細胞を試験管内で作り出す実験を行い、抗PD-1抗体を加えると、ない場合と比べて、より効率よくTh9細胞を作り出せることを発見。また、悪性黒色腫のマウスモデルを用いた実験を行い、Th9細胞が作り出すインターロイキン9という分子がどのような作用をもつかを検討した結果、インターロイキン9の作用を無効にする試薬を投与したマウスでは、そうでないマウスに比べ、悪性黒色腫が早く進行したことから、インターロイキン9には悪性黒色腫の進展を抑える作用があることがわかったとしている。
今後は、末梢血中Th9細胞をモニタリングし、オプジーボ投与後早期に治療効果を判定するバイオマーカーとしての活用やTh9細胞の機能を高めることで、抗腫瘍効果を高める可能性の波及効果が期待できると研究グループは見ている。オプジーボ投与後によりTh9細胞が増加する患者、しない患者のさらなる詳細な違いを解析していくとしている。
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・京都大学 研究成果