農研機構は、アレルギー反応を引き起こす蛋白質の一部を取り除いた遺伝子組み換えイネから「スギ花粉ペプチド含有米」を開発した。その実用化を加速するため、大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターなどの研究機関、製薬企業にスギ花粉ペプチド含有米を提供し、オープンイノベーションを推し進めることにした。スギ花粉米の臨床研究は、大阪府立呼吸器・アレルギー医療センターと東京慈恵会医科大学において、11月からスギ花粉ペプチド含有米を被験者に摂取してもらい、半年間にわたって進め、スギ花粉症の症状が改善したかどうか検証する。また、大塚製薬工場にもスギ花粉ペプチド含有米を提供し、基礎研究を行っていくとしている。基礎研究の開始時期や内容については検討中。
スギ花粉症を緩和する米を医薬品として実用化する研究をめぐっては、農林水産省が「アグリ・ヘルス実用化研究促進プロジェクト」として、2011年度から5カ年計画で実施している。同プロジェクトでは、スギ花粉ペプチド含有米と同様に、アレルギー反応を引き起こす蛋白質の一部を除いた「スギ花粉ポリペプチド含有米」を使用したが、医薬品としての安全性が確認されていないのが現状。そのため、農研が連携で実施する臨床研究や基礎研究では、安全性が確認されているスギ花粉ペプチド含有米を使用する。
現在の花粉症治療は、かゆみや鼻水などの症状を引き起こすヒスタミンの働きを止める薬を服用する対症療法が主流となっている。根治療法としては、アレルギーを引き起こす花粉の抽出液を少しずつ患者の体内に注射したり、花粉のエキスを舌下に垂らして、花粉に対する慣れを体内に作る減感作療法があるが、エキスの濃度を少しずつ上げながら長い時間をかけて体を慣らしていく必要があるため、効果が出るまでに2~3年は通院する必要がある。一方、スギ花粉ペプチド含有米は、腸で免疫細胞に吸収されるため、アナフィラキシーを引き起こしにくい状態で免疫寛容を引き起こす腸管免疫が獲得できるという利点がある。