さまざまな薬効があり、天然甘味料としても多くの食品で使用
理化学研究所は10月24日、漢方などに使われる重要生薬「甘草(カンゾウ)」の全ゲノム解読を行い、推定されているゲノムサイズの94.5%に相当するゲノム情報を得ることに成功したと発表した。この研究は、理研環境資源科学研究センター統合メタボロミクス研究グループの斉藤和季グループディレクター(千葉大学大学院薬学研究院教授)、セルロース生産研究チームの持田恵一チームリーダー、統合ゲノム情報研究ユニットの櫻井哲也ユニットリーダー(高知大学総合科学系複合領域科学部門准教授)、大阪大学大学院工学研究科の村中俊哉教授、關光准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「The Plant Journal」オンライン版に、10月24日付けで掲載されている。
画像はリリースより
「甘草」はマメ科の生薬で、その地下部は甘草根とも呼ばれ、医薬品、化粧品などの原料として大きな需要がある。日本で広く用いられている200種を超える一般用漢方処方薬の約70%に配合されており、漢方の中で最も汎用性の高い生薬だ。特に、甘草に蓄積されるトリテルペン配糖体の一種であるグリチルリチンは、肝機能改善や抗炎症作用、去痰、消化性潰瘍の治癒など、さまざまな薬効があるだけでなく、砂糖の150倍以上の甘さがあるため、天然甘味料としても多くの食品に使われている。グリチルリチンは非糖質系甘味料のため、カロリーが低く、メタボリック症候群の予防にも役立つとして注目されている。
国内栽培化、生産性の向上、薬効成分の生産に必要な有用遺伝子探索に期待
現在、国内の医師の9割が漢方を治療に用いており、その利用量は毎年増加傾向にある。しかし、甘草をはじめ漢方に用いる生薬の85%は中国からの輸入に依存しており、中国の経済成長などに伴い輸出制限や価格の高騰が続いている。また、世界的な需要の高まりを受け、特に甘草や麻黄などの汎用生薬の安定供給が懸念される中、有効成分含量が高く国内栽培に適した甘草の育種や有用成分の生産に関わる遺伝子探索を効率よく進めるため、全ゲノムの解読によりゲノム情報を得ることが期待されていた。
そこで今回、研究グループは甘草の中でも最も上質とされる「ウラル甘草」の全ゲノム解読を実施。得られたゲノム情報を解析し、34,445個のタンパク質をコードする遺伝子を見出したという。また、甘草のゲノム情報と、他のマメ科植物のゲノム情報およびゲノム全域との比較解析などを行った結果、薬効成分のひとつであるイソフラボノイドの生合成に関わる遺伝子群の一部が遺伝子クラスタを形成していることを発見。さらに、グリチルリチンを含む有用化合物群の生合成に関わる酵素遺伝子が含まれる遺伝子ファミリー(P450ファミリー、UGTファミリー)を、甘草のゲノム情報から網羅的に探索し、それらの遺伝子構造と遺伝子発現を明らかにしたという。
この成果は、甘草の分子育種による国内栽培化、生産性の向上、生薬としての機能改変のほか、薬効成分の生産に必要な有用遺伝子の探索に資すると、研究グループは期待を寄せている。
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