遺伝子変異でPTPSやDHPRが欠損している患者の末梢血からiPS細胞を作製
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は10月24日、石川泰三研究員、井上治久教授らの研究グループが、患者由来のiPS細胞を用いて、BH4代謝病(ビオプテリン代謝異常症)におけるドパミン合成異常の再現と、その遺伝学的および薬理学的修復に成功したと発表した。研究成果は「Human Molecular Genetics」オンライン版に10月18日付けで掲載された。
画像はリリースより
ドパミンはBH4代謝病やパーキンソン病を含むいくつかの疾患で中心的な役割を果たしているが、合成する経路の中で、律速段階となっているのがチロシンハイドロキシレース(TH)による反応。そのTHの反応にはBH4が必要となるため、BH4の合成やリサイクルがうまくできなくなると、ドパミン合成が異常になり、運動障害を含めさまざまな症状をきたす。
BH4の合成に関わるPTPSという酵素や、BH4のリサイクルに関わるDHPRという酵素をコードする遺伝子に変異が入ると、BH4の代謝異常がおきる。BH4代謝異常やBH4の代謝についてはこれまでにも研究がされていた。しかし、BH4の合成やリサイクルに関わる遺伝子の変化が患者の脳の中でどのようにしてドパミン合成の異常をおこすのかはわかっていなかった。
研究グループは、遺伝子変異(変化)によりPTPSやDHPRが欠損している患者の末梢血から、iPS細胞を作製、ドパミン神経へと誘導することで、BH4代謝病患者のモデル神経細胞を作った。また、iPS細胞の段階で原因となっている遺伝子変異を、ゲノム編集技術により修復し、ドパミン神経へと誘導、患者と遺伝子情報が変異箇所を除いて同じであるコントロール細胞も作製した。
Rare Diseaseの知見からCommon Diseaseの病態改善しうる生理活性物質同定
これらを用いてPTPSを欠損した患者のモデル神経細胞と遺伝子修復した神経細胞とを比較したところ、神経細胞の量はどちらも同じくらいであるにもかかわらず、BH4の量、THタンパク質の量、合成されるドパミンレベルが患者のモデル神経細胞の方で減少。一方、DHPRを欠損した患者のモデル神経細胞ではBH4の量が減少しておらず、かわりにBH4酸化物であるBH2が増加していた。このことから両変異遺伝子でドパミン量減少をきたす機序に差異があることが示唆された。
さらに、PTPS変異BH4代謝病の患者モデル神経細胞に、BH4あるいはBH4の前駆物質であるセピアプテリンを作用させると、THタンパク質の量およびドパミン合成レベルが増加した。ドパミン合成異常があるパーキンソン病の患者モデル神経細胞にセピアプテリンを作用させたところ、同様にTHタンパク質量の増加、ドパミン合成レベルの増加を確認できた。
今回の研究成果により、BH4代謝病の患者由来のiPS細胞はドパミン合成異常を示す疾患のドパミン合成を改善する生理活性物質や治療薬のスクリーニングに利用可能であることが明らかとなった。さらにRare Disease(患者数の少ない疾患)の知見からCommon Disease(患者数の多い疾患)の病態を改善しうる生理活性物質を同定したとしている。
BH4代謝病は、BH4の先天的な代謝異常によりおきる遺伝性疾患。BH4代謝の異常により、神経伝達物質の低下による重篤な中枢神経障害がおこる。PTPS欠損の患者は世界で300人(日本で32人)、DHPR欠損の患者は世界で200人(日本で5人)と報告されている。
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