混合物だけでなく、家電など成形品からの暴露も推定可能に
産業技術総合研究所は10月20日、室内で使用する製品に含まれる化学物質の人への暴露をパソコンで評価できるソフトウェア(ツール)「室内製品暴露評価ツール(ICET)」の無償版Ver.0.8を公開したと発表した。この開発は、同安全科学研究部門環境暴露モデリンググループの東野晴行研究グループ長、梶原秀夫主任研究員らによるもの。
画像はリリースより
産総研では、これまでに「室内暴露評価ツール(iAIR)」を開発し2011年から公開している。しかし、iAIRは室内の空気からの吸入暴露だけが対象で、皮膚との接触による経皮暴露やハウスダスト経由の経口暴露には対応していなかった。そこで、経皮と経口の暴露にも対応した、室内で使用される製品に含まれる化学物質の人への暴露を推定するツールICETを開発したという。
ICETでは、室内製品からの化学物質の人への吸入、経皮、経口暴露を推定可能。家電や家具など成形品の中に含まれている化学物質が、経年劣化などにより室内空気中に徐々に放散したり、皮膚表面の水分に溶出したりして生じる人への暴露も評価できる。今回、成形品との直接接触による経皮暴露の評価について、皮膚表面への移行率と経皮吸収率を推定する機能を開発。従来は過大な移行率、経皮吸収率を用いて極端に安全側に推定していたが、ICETにより実際の製品使用時に近い状況が再現できるようになった。
現実に近い暴露シナリオでの評価が可能、企業などでの活用に期待
また、製品の固体状、液体状、スプレー噴霧など室内での多様な使用形態に対応した吸入暴露量の推定が可能となった。長期間の暴露を効率よく計算するために、定常状態を仮定した推定もできる。スプレー製品については独自の噴霧実験により、噴霧者の周辺空間と粒子の沈降を考慮できる推定式を得た。衣類などの防虫剤については、部屋に隣接したクローゼットとの間の空気の移動や、クローゼット内に置かれた収納容器との間の空気の移動を考慮した濃度が推定できるという。
さらにICETは、モンテカルロシミュレーションにより、既存の多くのツールが対象としているひとりの人間の住宅内での暴露量だけでなく、暴露量の人口分布を推定することが可能になったという。日本の実情にあった暴露評価が可能となり、実際の使用環境に近い状況での評価ができるようになったため、データベースと併用することで、日本全体を母集団とした暴露量の人口分布を推定できるようになった。
今後は、企業との共同研究や技術コンサルティングを通じて、実際に企業現場で現在あるいは将来的な問題として懸念されている事例のケーススタディーを行い、そこで得られた知見をフィードバックして、ICETを改良していく計画であるとしている。
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