ヒトの体内で細胞を取り巻く3次元的な環境をデバイス内で創出
京都大学は10月19日、ヒトES/iPS細胞に適した非常に小さな3次元空間を創りだすデバイスの開発に、世界で初めて成功したと発表した。この研究は、同大学物質−細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)の陳勇教授、亀井謙一郎同特定准教授らのグループによるもの。研究成果は、独科学誌「Advanced Healthcare Materials」(電子版)で公開された。
画像はリリースより
ヒトES/iPS細胞は、再生医療や創薬などへの応用・実用化が期待され、研究が進められている。しかし、従来から使用されている2次元(平面)細胞培養では目的の細胞機能の獲得が難しいとされ、その原因は、ヒトの体内で細胞を取り巻いている3次元的な環境を、従来の培養方法では作り出せないことにあるという。
再⽣医療や創薬、組織工学の発展のカギに
研究グループは、半導体分野などで実用化されている微細加工技術を基にした「マイクロ流体デバイス」と、温度に応じて「ゲル」「液体」に変化するヒドロゲルに着目。ヒトES/iPS細胞に適した3次元的な環境を創出することを可能にするマイクロ流体デバイスの開発に成功した。
今回開発されたマイクロ流体デバイスは、従来の複雑で特殊な装置を必要とするデバイスではなく、極めてシンプル。多くの生物系の研究室でも実験可能なデザインであるという。さらに研究グループは、細胞の機能解析と遺伝子解析を実施し、このデバイスによる新規3次元培養法で培養された細胞と、従来の細胞培養法で培養した細胞を比較。その結果、細胞表現型としての変化はほとんど確認できなかったものの、各培養法に特異的な遺伝子発現パターンを見出すことができたという。
このデバイスにより、ヒトES/iPS細胞をはじめとする細胞・組織の機能を制御する機構の解明や、組織工学・再生医療・創薬の発展に貢献できる。さらに、創薬スクリーニングやがん幹細胞研究への応用も可能であり、新規薬剤開発に役立つことが期待されると、研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果